Rides Against

Rides Against(ライズ アゲインスト)─グランド・セフト・オートシリーズにおけるロールプレイングコミュニティ「RP_JP」発の、複数人によって運営される自動車総合情報サイトです。主にGTA5内に登場する架空の自動車を、現実世界の媒体に負けない熱量で、リアルにレビューしていくという活動をここで発信しています。(モデル車両のスペック及び史実との乖離に関してのご意見、ご感想は一切受けかねます。)

Vol.4 矛盾に溺れた、不朽の問題作-1977 Declasse Rhapsody W-


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デクラス ラプソディ

  自動車の進化の歴史は、常に矛盾との闘いであった。パワフルなのに低燃費・速いのにすぐ止まれる・重いのに軽快に走る・小さいのに車内は広い…各メーカーの開発陣は、終わることの無いイタチごっこを日々研究室で繰り広げ、ひねり出された妥協点を搭載した新型車を発売した。

  今現在、昔に比べて技術も進歩し、自動車開発において生まれ続ける矛盾は、それなりの妥協はあるものの大きな頭痛のタネでは無くなってきている。ガソリンを一切使わず、驚異的なパワーを生み出す電気自動車の登場などもまさにそれだろう。

  さて、今回紹介するのは、自動車が飛躍的に進化した1950〜1960年代を抜け、様々なものを生み出し、同時に捨て去りながらメーカーが各々夢見た未来に突き進んでいった1970年代。デクラス社が出した答えは、幾重にも重なる矛盾にタイヤが付いたような、奇妙な車だった。

デクラス・ラプソディ。
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基本的なスペック

販売期間:1975 - 1980年

ボディタイプ:2ドアセダン

乗車定員:5名

エンジン:3.8ℓ直列6気筒OHV 101ps

駆動方式:FR

変速機:3速AT/4速MT/5速MT

サスペンション:F:ダブルウィッシュボーン

                             R:リジットアクスル

全長:4350mm

全幅:1965mm

全高:1360mm

ホイールベース:2450mm

車両重量:1370kg

 

マッスルカー時代の終焉

  ラプソディが生まれた1975年、ある1つの自動車のカテゴリーがこの世から消えようとしていた。  ──マッスルカーである。大排気量大トルクのエンジンを積んだ、後輪駆動2ドアクーペのアメリカ車たち。時代は不景気と石油危機真っ只中。お先真っ暗な経済とどんよりした世界情勢、みるみる膨れ上がるガソリンの値段。世界的な環境保護意識の高まりも相まって、ガソリンをモクモク燃やしながら悠長に走る、煌びやかで巨大な鉄の塊など、消費者からそっぽを向かれるのは当たり前の話だった。
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↑[アメリカが最も勢いに乗っていた1950年代。派手なデザインのフルサイズカーたちは、当時の消費者たちの1番の憧れだった。]

 

  急激に厳しくなった排ガス規制、各メーカーは大急ぎで新規格の車を作り始める。アルバニー社の人気高級クーペだったマニャーナはFFのコンパクトカーになり、マッスルカー最大手とも言われたインポンテ社は既に経営破綻の影がちらつき始めていた。

  特にこぞって行われたのが車格及びエンジンのダウンサイジングで、発売されたモデルのほとんどがフルサイズセダンかワゴンをそのまま小さくしただけの車体に、付け焼き刃の6気筒か4気筒のエンジンを積んだ粗末なモノであった。一部のフラッグシップモデル等を除きV8エンジンを積んだフルサイズカーは軒並み姿を消してしまったのである。

  かつて巨大なV8フルサイズカーを求めていた消費者達が一斉に少排気量のコンパクトカーを欲しがる様は、メーカーたちの目にもそれも大きな1つの“矛盾”に映ったことだろう。

 

  

10年先を見越して開発

   さて、話をこの車に戻そう。

  上述のスペック表を見て、違和感を感じた読者がいるならそこそこのカーフリークであろう。この車、この見た目でとてつもなく横幅が広いのである。

  2450mmのホイールベースに対して車体幅が1965mmだから、4つの車輪がほぼ正方形の形で配置されているようなものだ。

  ラプソディを開発した当時のデザイナー陣が掲げた理念は「10年先を見越した車」。当時デクラス社が心血を注いで開発していたロータリーエンジンの搭載(燃費の問題をクリアできず結局不採用となる)、360°の視界を実現する先進的なウインドウレイアウト。

  そして、デクラス社が提案した「全体をコンパクトにしつつ居住性を高めるために横幅を大きくする」今までにない独自のカテゴリー、「ワイドスモールカー」である。
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↑[全幅2095mmのパトリオットとあまり差のないほどの横幅の広さ。デクラス社が夢見た「ワイドスモールカー」計画で唯一生まれた1台である。]

  結論から言えば、この車は商業的には成功している。安価で、愛くるしいルックスと豊富なオプション装備、某有名ドラマシリーズに劇中車として登場したこともあり、若者や広い世代の女性にウケ、デクラス社の中でも多い67万台を超える販売台数を記録している。

  その一方で、欧州やアジア圏での売り上げはさっぱりだったという。その圏の車のサイズ感では、この車の横幅は商用バンにすら匹敵する大きさのため、ワイドスモールカーという概念に何一つメリットを感じなかったのだと考えられる。
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↑[後部座席の周りはほぼ全てウインドウという斬新で攻めたデザイン。結果的に車体重量の増加を招いた。]

 

 

実際に乗ってみた

  まずはエクステリアから見ていこう。きっと写真ではこの車のサイズ感は伝わりにくいだろう(あなたの想像しているそれの、きっと1.4倍はあるはず)。

  今回取材したのは、ラプソディのラインナップ中で最もスパルタンな「Rhapsody W」。純正より10馬力UP、足回りの強化、5速MTのみ用意されているホットなモデルである。

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↑[フロントのリップスポイラーとダックテールフィンはWのみに用意されたオプション装備。“ロスト・マッスルカー世代”はこういったパーツに目がなかった。]
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↑[車体横に目立つ大きさで貼られた「RHAPSODY W」のデカール。オプションではなくWの標準装備だった。]
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↑[ワイドなラリータイヤを履くため、片側15mmずつオーバーフェンダーが装着されている。モデル名の「W(Wide)」の由来だ。]

 

  ホットモデルということもあり、キュートなルックスで人気を得たラプソディに、厳ついリップスポイラーにダックテールフィン、20mm下げられた車高に、オーバーフェンダーに収まるワイドなラリータイヤが絶妙にマッチしてかなりスパルタンに仕上がっている。オプション装備のストライプが入ったボンネットの下には、メーカーがチューンアップした直列6気筒エンジンが息を潜めている。
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↑[窮屈なエンジンルームに縦置きで押し込まれた直列6気筒エンジン。当初の予定ではここにロータリーエンジンが載せられるはずだった。]

 

いよいよ乗り込んでみよう。

 ホットモデルとあって、レーシングタイプのステアリングにリクライニングできるセミバケットシート、スチールプレート&スチールノブの5速シフトが出迎えてくれる。
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↑[標準のラプソディはレッドやライムグリーンなどインテリアカラーの豊富さで若者からの支持を得たが、Wはブラックのみ。そのギャップのあるストイックさもマッスルカーファンに大いにウケた。]

 

車内は驚くほど広々としている。上述の横幅に加え、この車は背も高い。360°ヴィジョンのウインドウレイアウトも、どこまでも広がるような開放感を生んでいる。
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↑[後ろ正面から見ると独特なスタイリングがよくわかる。広い横幅と高い背を、滑らかな形状の大きなリアウィンドウが弧を描いて繋げている。]

  

 エンジンをかけてみよう。セルを回すと、勇ましい音が響き渡る。

  レーシーなスチールペダルを踏み、加速。

──ああ、この車は正真正銘アメリカ車だ。車体を後ろに大きく傾け、後輪を唸らせながらグイグイ加速していく。タコメーターの針は一気にレッドゾーンへ。慌ててクラッチを踏み2速。シフトのスチールプレートの音が心地良い。
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↑[直6エンジンのトルクはこの車重には充分パワフル。その走りはかなりマッスルカー然としている。]
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↑[車内からの後方の視界。グルリと見渡せる圧巻のパノラマビューイング。]
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↑[窮屈な後部座席には(一応)3人まで乗せることができる。乗せないことをおすすめするが。]

  ハイウェイに乗る。50マイル前後の車たちの流れにスムーズに合流。

  高速コーナーでは、そのホイールベースの短さからかなりピーキーな動きをするが、低速コーナーでは横幅の広さを活かし、がっちり路面をホールドしてグリップできる。これで草レースなんかやっても楽しそうだ。

  

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↑[テール周りは、のっぺりとしつつかなり未来感のある奇抜なデザイン。当時のエンスージアスト達からは「UFO」「ジェリーフィッシュ」等と評されていた。]

 

総評

  目が回るほどのスピードで進化していく技術に、移ろいつづける消費者たちの欲しがるモノ。自動車メーカーたちは日々試行錯誤し、頭を抱え、時に大きな賭けに出ることがある。ラプソディもその“賭け”の1つであろう。

  コンパクトでありながら幅広にして居住性を高め、車重を犠牲にしてまで求めた360°のウインドウレイアウト。見れば見るほどデクラス社の葛藤や試行錯誤が伝わる。

  結局、セールス的には上手くいった方ではあったものの、北米及びオーストラリア以外にはほとんど飛び立つことはできず、5年間で生産された67万台はほぼ全て国内での流通となる。結果、デクラス社が夢見た「ワイドスモールカー」計画はこの1台で絶たれることとなってしまう。

  世界中全ての自動車メーカーが平等に抱える矛盾に、斬新な形で真っ向から挑んだラプソディ。一癖も二癖もある愛すべき問題作を、ゆっくり愛でながら歩むカーライフも素敵だと思う。

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↑[ドアよりウインドウを高くデザインしたため、完全には下がりきらないという。まるでスーパーカーのようだ…]

 


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