Rides Against

Rides Against(ライズ アゲインスト)─グランド・セフト・オートシリーズにおけるロールプレイングコミュニティ「RP_JP」発の、複数人によって運営される自動車総合情報サイトです。主にGTA5内に登場する架空の自動車を、現実世界の媒体に負けない熱量で、リアルにレビューしていくという活動をここで発信しています。(モデル車両のスペック及び史実との乖離に関してのご意見、ご感想は一切受けかねます。)

Vol.10 合衆国のSUV -1988 Declasse Rancher XL-

デクラス ランチャーXL
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アメリカを代表する名作SUV

  1980年代、翼を抜かれたマッスルカー達に変わってアメリカの若者に持て囃されたのは、頑強なラダーフレームボディにパワフルなエンジン、大人数が乗れて荷物も乗り、悪路もガンガン走れる四輪駆動のワゴン「SUV(Sport Utility Vehicle)」だった。当然、各社魅力的なモデルを次々市場に送り込み、様々なSUVがしのぎを削った。これには、「小さい車体に大パワーを発揮するエンジンを載せるなんて馬鹿げている」というマッスルカー全体への世間的なバッシングに対し、「大柄なボディの四輪駆動車が悪路を走破する為には大パワーのエンジンは必要不可欠である。」という免罪符のような理屈をまかり通らせ、失われたマッスルカー・スピリットを取り戻そうとしたメーカー及び消費者達への1つの救済でもあったという。その上、当時は「作業用車両」としての扱いだったため、かかる税金もかなり安かった。

  その激化したSUV競走の中でも、一際高い評価を受けたモノが、今回紹介するデクラス ランチャーシリーズである。
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基本的なスペック

販売期間:1973-1996年(1989-1996年はブラジル生産)

 ボディタイプ:2ドアSUV、4ドアSUV、4ドアピックアップ(ブラジル生産)

 乗車定員:5-9名

 駆動方式:FR/4WD

 エンジン:ディーゼル-5.7ℓV8、6.2ℓV8、4ℓ直列4気筒(ブラジル生産)  ガソリン-5.7ℓV8、6.6ℓV8、7.4ℓV8、4.1ℓ直列6気筒(ブラジル生産)

 変速機:3速MT、ターボハイドロマティック3速AT、ターボハイドロマティック4速AT

 ホイールベース:3,290mm

 全長:5,565mm

 全幅:2,022mm

 

 働く車が本格派SUV

  デクラス ランチャーの歴史は非常に長い。既にデクラス社の設計部では1933年に構想は練られていたとされる。初代ランチャーは1935年に発売されており、2007年に後継モデルのグレンジャーにバトンを渡すまで世界中で人気SUVの座を獲得し続けた。

  まず第1に、ランチャーは最初から高性能なクロスカントリーとして誕生した訳では無い。初代の1935年モデルの設計思想は完全に商用のそれであり、実際安価で頑丈な運搬車両として爆発的な人気を得ていた。当時多くの車がフレームに木材を用いていた中オールスチール製で制作され、そのタフさを買われ第二次世界大戦期でのアメリカ軍にて軍用車両のベースとしても重用された。
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↑[1946年、第2世代にあたるランチャー。手頃なサイズと安さ、積載量の多さで大ヒットし、国民的自動車となった。]

  その後およそ40年近く、実に6代にわたり手頃で丈夫な中型の運搬車両として一定の人気を獲得しながらデクラス社のラインナップに登場し続けた。

  転機が訪れたのは、6代目のランチャーの頃。この代からデクラスは、南米及びオセアニア市場向けの車両を生産するべく、ブラジルに工場を設立していた。そのブラジル生産ランチャー 、“ヴェラネイオ”が南米市場で空前のヒットを記録する。
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↑[ブラジル産ランチャー“ヴェラネイオ”。テール周りにステーションワゴン時代の面影を見ることができる。]

  ヴェラネイオは、相変わらずスタイルが低く、商用と割り切り運転席側には後席ドアが設けられていなかった3ドアステーションワゴンであった6代目ランチャーに、ブラジルに設置された設計部が独自のテイストを加えた車だ。4WDモデルをベースに、低かった車高をかなり高くし、幅の広いラジアルタイヤを履かせ、ドアもしっかり4枚、後席も立派なモノが装着された100点満点のSUVだ。丁度現在の世間一般のSUVと似通った仕様であり、南米のみならず北米本土でも人気を博し、個人で輸入したり、自らの手で北米版ランチャーをリフトアップする者も現れた。

  1970年代になると、同カテゴリーのライバル車の乱立、オイルショックによる自動車産業の冷え込み、中型の運搬車両というカテゴリーの需要の低下によりリース率は著しく減少、ランチャーブランドの消滅が囁かれていた北米デクラス本社の設計部は、すぐさまブラジル設計部の人員と資料、ヴェラネイオの実物を取り寄せ、7代目ランチャーの設計に取り掛かった。

  ──コンセプトはもちろん、中型のステーションワゴンなどではない。
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↑[フラットブラックとブリーチブラウンのツートンカラー。カラーバリエーションも豊富で、ツートンカラーの組み合わせの通りは膨大な数になった。] 

 

  7代目ランチャーを設計するにあたり、プラットフォームは同社の中型トラックから流用、足回りやミッション関係は軍用車両すら参考にした。エンジンも初めてディーゼル仕様が用意され(生産工場のあったブラジルでのディーゼルエンジンの普及率を省みた結果である)、トランスミッションはデクラス社お得意のターボハイドロマティック。

  華美な装飾を排し威圧感のある無骨なルックスを持つ、史上類を見ないほどタフでパワフル、信頼性も抜群なデクラス初の本格派クロスカントリーが完成した。そこには商用ステーションワゴン時代のランチャーの面影は無かったが、きちんと荷室の積載量を犠牲にすることなく立派なベンチシートを備えた内装は、運搬車両のノウハウと大衆車を長らく生産してきたデクラス社の譲れないセオリーであったのだろう。
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↑[立派な後席を備えながら、最大限のスペース効率を発揮して与えられた広々としたラゲッジスペース。このモデルは独立シート+ベンチシートの5人乗りだが、オプション次第で3列+全列ベンチシートで最大9人乗りにまでできてしまう。]
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↑[俗に「5マイルバンパー」と呼ばれる、北米の安全基準に則った大型のスチールバンパーが威圧感を与える。エキゾーストは下を向いており、多少の深さの水場に突入しても水が内部に入りにくい。]
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↑[潔いほどリフトアップされた車体に、大きくはみ出すほど幅の広い巨大なタイヤが収められる。どれほど出ているか運転席からは全く見えないため不意の事故に注意が必要。]

   2018年現在、SUVというカテゴリーは、各メーカーが販路の拡大を望んだ結果、かなり広い範囲の車種を指す言葉になった。当初の本格的なクロスカントリービークル以外にも、税制上有利なライトトラック、コンパクトなファミリーカーをベースに、少々高くした車高にチープなグリルガードやフォグランプ等を装着しただけのもの、そして近年最も需要のある、モノコックボディの高級ワゴン風のラグジュアリー思考のものや、セダンとミックスさせオンロードでの性能を重視したクロスオーバーSUVと呼ばれるものまで様々だ。

  1980年代の本格派クロスカントリーブームを経験したカーフリーク達は、そういった都会派のSUVをしばしば「サッカーマムズ・ビークル(母親が息子をサッカーに送り届ける際に使う車)」と蔑称で呼ぶ。

 

実際に乗ってみた

  それでは乗ってみよう。かなり高い車高は乗り降りに一苦労する。大柄なサイドステップもオプション装備に用意されていたようだが、ユーザーの多くを占めた“クロスカントリーガイ”達は、ステップ装着により車高が下がることを嫌いプレーンのままで乗る場合が多かった。
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  取材車はランチャーのラインナップ中最も大柄な「XL(Extra Large)」で、その全長は5.6m、幅も2mを優に超える。当然エンジンも強力なもので、6.6ℓV8が発揮するそのパワーに若者は心酔し、長年ランチャーと付き合ってきたオールドユーザーは度肝を抜かれた。

  内装にもデクラスの美学を感じることができる。汚れても手入れの楽なビニールレザー張りのシートは、ペカペカした安っぽさなどひとつもなく、高級感あふれるブラウンで統一。スチールプレート製のメーターパネルとの対比が意外にもマッチしている。
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  リアシートはベンチながら3箇所に独立したクッションが設けられ、ゆったりと大人3人がくつろげる空間を生む。エアコンのスイッチ類も煩雑さを極力抑えたシンプルなもので、ラジオももちろん標準装備だ。

  それでは実走行にとりかかろう。

 

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 エンジンをかけると、身震いがするほどの分厚い重低音を響かせる。ほとんどトラックのそれだ。ちなみに、70年代前半〜90年代というその長い販売期間のため、マイナーチェンジでの変更点で最も変化の多かった箇所がエンジンであった。当初キャブレターであったものが87年モデルより電子制御インジェクションが標準化されている。

 シフトレバーのロック解除ボタンを押しながらドライブギアにいれる。発進。オフローダーではあるが尖ったギア比設定ではないようで、踏みすぎることがなければ比較的スムーズに走り出せる。

 純粋なクロスカントリーだが都心部での使い勝手もきちんと考慮されている。SUV特有の視点の高さは周囲への視界がよく行き届き、スタイルの低いクーペやセダンより運転しやすく感じる。安全基準ギリギリいっぱいに大きなサイドミラーも足元の死角をカバーできており、オプション装備かアフターマーケットのフェンダーミラーまであればこの上なく安全なSUVと言えよう。
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↑[都心部の混雑する道などでは大きくて少々気を使うが、郊外に出てしまえばその心配も減る。ごく普通のファミリーカーとして使うにはそこそこ勇気がいるが、趣味のレジャービークルとしては非常に優れている。]

 

  それではこの車の本領が発揮されるオフロードへ向かおう。空は雨がパラつきはじめ、絶好のテストラン日和となった。
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  フィールドはしっかり湿った砂と砂利、少々の水たまりで最悪のコンディションである。後輪駆動のセダンならものの数分でスタックし、前輪駆動のコンパクトカーなら緩やかな上り坂すら登れないだろう。

  ランチャーはトルクフルなV8と四輪駆動のコンビネーションで何の不安定さもなく砂利道をなぞっていく。そのあまりにも長いホイールベースは決してリムジンの真似事ではなく、電子制御もない時代の4WDが安定したオフロード走行を行うためのシンプルかつ最も的確なアイデアなのである。

  アクセル全開で走ってみよう。
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  エンジンは轟音を上げ、四輪がギュルギュルと空転しているのがフレーム全体を通して伝わってくる。土煙が視界を包み…一秒、後ろから強く蹴飛ばされたように急加速。空転していた四輪はみるみるうちに砂利道にしっかり掴みかかり、気づいた頃にはまるで敷かれたレールの上を走っているような安定感に戻っている。トラックがベースの頑強なラダーフレームはこの程度じゃ車体をブレさせたりしないのだ。



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総評

 どこまでもアスファルトが続いている現代において、突然のように始まったラグジュアリーSUVブームに首をかしげていた読者も多いことだろう。が、よく考えてみてほしい。

  昨今、昔のように気軽に自動車を保有することは難しくなっている。物価や石油価格の上昇や各種税金、保険金等の増額は誰の目にも明らかであるし、電子制御システムや安全設備が豊富になった自動車自体も値上がりして…と、挙げだしたらキリがないほど要因は存在する。その上で、「まあまあ車好きな人」達は、そう簡単に自分の趣味全開の車を持つことはできなくなってしまった。そこでSUVである。走りを犠牲にせず、家族5人がしっかり座れる車内に、週末のショッピングモール巡りにも耐えられる大きなラゲッジスペース。下手なセダンより俄然優れている。舗装路での走りを重視したスポーティなモデルも続々登場しており、ツーシーターの2ドアクーペを持てない父親層を取り込むことに大いに成功している。

 では、本格派クロスカントリーはもうこれから注目されることはないのかと言えば全くそんなことはない。つい最近になって各社魅力的な本格派クロスカントリーの新モデルを多数発表しており、まだまだこのカテゴリーは我々を楽しませてくれそうだ。

 ランチャーはFIB、ATF等の各種司法機関およびU.S.シークレットサービスに全面的に採用された初めてのSUVとして有名である。道路状況を選ばない高い走破性とパワフルで頑丈なエンジン、高い乗降性、銃弾からの盾になる上、近づくことすら躊躇われる威圧感たっぷりの大柄なボディに、ライフルやショットガン、防弾盾等を詰め込める積載量の多さを買われ、従来の背の低いセダンタイプの車両よりも優れていると評価された。こんなにも優れているコマーシャルはなかなか無いだろう。

 この優秀なSUVは、そのスピリットを2007年に生まれた後継モデルのグレンジャーに遺憾無く継承しその役目をバトンタッチ、現在も多数の国家機関で幅広く採用され続けている。もちろん、その実用性も余すことなく継承され、新たに加えられた新技術が自動車としての完成度をより高め、今なお合衆国を代表するSUVとして君臨し続けている。f:id:LsCarLife:20180728142404j:image


 


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