Vol.11 その全てが新しかった 1971 Karin 190Z GT
カリン 190Z
"The BrandNew SportCar"
この宣伝文句を覚えている方はいるだろうか?
今回紹介するのはカリンの誇るスポーツカー 190Z。
アメリカで日本で世界で。グローバルに大ヒットを果たした"Z-Car"の魅力に迫る。
日本生まれアメリカ育ち
このフレーズが当てはまるものは多々あれど車、特にスポーツカーにおいてこの表現が最も似合う車は190Zだと言っても過言ではないだろう。
190Zは対米輸出戦略を見据えて設計された3ドアクーペで、ポニーカーを"スポーツカー"として扱うアメリカ人のスポーツカー観をその衝撃によってめちゃくちゃに破壊し、新たな価値観を与えたアメリカにおいて歴史的なスポーツカーだ。
基本的なスペック
販売期間:1967-1973年
ボディタイプ:3ドアクーペ
エンジン:1.9L Inline-6 DOHC
駆動方式:FR
ホイールベース:2330mm
車両重量:1060kg
若者の救世主
1960年代当時、アメリカで買えるスポーツカーらしいスポーツカーと言えばドイツやイタリア、イギリスといった欧州諸国から海を渡ってきた高性能GTであり、彼らは若者の憧れの的であると同時に大多数にとって手の届かない高嶺の花だった。
若者が買えるのはセイバーやスタリオンといった国産の鈍重なマッスルカー。重く大柄なボディに巨大なエンジンを載せた直線番長の代名詞とも言える車たちだ。マッスルカーでは10秒レース以外で欧州スポーツに敵うはずもなく、若者たちは週末の各地のサーキットでヨーロピアンスポーツにコテンパンに打ち負かされたのは言うまでもない
また、数ある国産車の中でもコケットとマンバは欧州製のGTに十分に対抗し得るパフォーマンスを持っていたが2台はともにスポーツカーというよりはレーシングカーに近い性格であり、価格もコケットが5000ドル、マンバが6000ドルと高性能の代償に非常に高価で若者にはとても現実的な選択肢とは言えなかった。
しかし67年にアメリカに上陸した190Zはヨーロッパ製スポーツカーに負けない高性能と国産車より少し高い程度の値段で若者が飛びつくのも無理もなかった。
Z-Carの"Z"
それは国産車贔屓の終わりを意味していた。
1.9Lの直列6気筒DOHCエンジンは160psを発揮、1トンそこそこの軽量なボディを時速135マイルまで加速させる。グロッティのようなスーパーGTにこそ一歩及ばないものの当時としては十分に高性能で、ドライバー次第でオセロットやフィスターを追いかけ回すことすらできた。そんな日本製のスーパーカーが少し無理をすれば買えてしまう。その事実は多くの若者に夢を与え、多くの走り好きを虜にしたのは言うまでもない。
そしてこの車が多くの若者に新鮮に映った最大の要素はその砲弾型のボディの内側にある。
160psのハイパワーを受け止める軽量で強固なモノコックフレームと四輪マクファーソンストラットの魅力は多くの国産車がラダーフレームやプラットフォームで、サスペンションはリア・リーフリジッドが定番だったと言えば当時いかに革新的な存在であったかが伝わるだろうか?
日本生まれの欧風スポーツ
用意されたグレードは1グレード
1900ccツインカムエンジンと5速マニュアル・トランスミッションを備える190Z GTのみ。
このマニュアルミッションは殆どの車がオートマチック車もしくは4速以下のマニュアル車であるというアメリカ国内の自動車事情を見越し、俗に"フィスター・シンクロ"とも呼ばれるサーボ式シンクロを搭載することで高いスポーツ性をアピールする役目を担っていた。
また、1900ccツインカムエンジンはノーマルながら連装キャブレターや等長マニホールド等で武装され保障値で160psとレーシングカー並のハイパワーを誇っていたが高回転型にチューニングされたそのエンジンを自在に唄わせ、パワーを100%引き出すのは至難の技だった。
このエンジンもまた低回転の豊かなトルクで走る国産車とグロッティの高回転・高出力エンジンを意識したもので、国産車にないスポーツ性のアピールに一役買っていた。
いざコクピットへ!
コクピットに収まるとまずスポーティなインテリアとロングノーズが目に飛び込んでくる。
チョークを引き、アクセルを煽りながらキーを捻ると1.9L直列6気筒エンジンが目を覚ます。
乾いた ややハイトーンな整ったアイドリング音はいかにもスポーツカーといった趣でマッスルカーのドロドロ・ドコドコとやかましいサウンドとは全くの別物でこのサウンドもまた当時の若者を魅了したのであろうことは想像に難くない。
長いシフトレバーを左上へ押し上げるとグニュッとソフトなフィールとともに1速に吸い込まれる不思議なシフトフィール。これはサーボ式シンクロ独特の感触だ。
クラッチを一気に繋いで全開ダッシュを決めたい衝動を抑えながら重いクラッチペダルをゆっくり踏み込み発進させる。
低回転のトルクが細く、発進はやや難しいがどことなく往年のグロッティを思い起こさせるフィールという意味ではたしかにエンジニアの狙い通りの"演出"であるようだ。
ゆっくりとアクセルを踏み込んでいくと連装キャブレターが空気を吸い込む唸りが大きくなっていく。ここで2速にシフトアップ。
さあ、ついに全開だ。
一旦アクセルから足を離し再び床まで踏み込む。
190Zは豪快な吸気音とハイトーンのエグゾーストを撒き散らしながら加速していく。その様はまるでレーシングカーのよう。
なるほどたしかにスポーツしている。
飛ばしているともちろんコーナーが迫ってくる。
思いっきりブレーキング。フロントにしっかり荷重を載せてノーズをインに向ける。
四輪ストラットの足回りは時速110マイルからのブレーキングとターンインをしっかり支え、フロントヘビーが災いしてやや外側に膨らみながらも概ね思った通りのラインを描いてコーナーを抜けていく。同年代の国産車ならブレーキングでフラつきターンインでノーズが外側へズルズルと流されていたであろうことを加味すれば十分すぎるぐらいに上出来だろう。
最後に
今回は偉大な日本製スポーツカー カリン190Zに触れたわけだが実はこの車に触れるのは初めてではない。クラシックカーレースの世界ではサーキットにラリーにと様々なカテゴリで活躍する人気マシン故に私も数回190Zを駆ってグラベルやワインディングを攻めたことがある。
しかしそれは決してこの車が安いためだけの人気ではなく、スポーツ性と高いポテンシャルの裏付けであるように私は思う。