Vol.12 小粒でもピリリと辛い? 1965 Lampadati Michelli GT
ランパダーティ ミッチェリGT
かつて販売されていたイタリア製小型クーペ ミッチェリ。端正なクーペボディと小さなツインカムエンジンによる軽快な走りも相まって高い人気を呼んだ。
今回紹介するのはミッチェリの最強グレード"GT"だ。
基本的なスペック
販売期間:1965-69年
ボディタイプ:2ドアクーペ
エンジン:1.6L Inline-4 DOHC "Twin spark"
駆動方式:FR
ホイールベース:2350mm
車両重量:750kg
サルーンから派生したスポーツカー
ミッチェリは実に"イタリアらしい"車だ。
シンプルながらバランスが取れた美しいボディ、7500rpmまで回るツインカムエンジン、軽快なハンドリングを提供する足回り。とても大衆車とは思えないスポーティなメカニズムが奢られている。デビュー当初ミッチェリのラインナップに2ドアクーペはなく4ドアセダンのベルリーナのみの設定だったようだが生まれながらにそのメカニズムは正にスポーツカー。小型大衆車ながら高い走行性能を誇ったスーパーサルーンだった。
そんなスーパーサルーンをスポーツカーに仕立て直したのが2ドアモデルのミッチェリだ。
ベルリーナの基本的なメカニズムはそのままにクーペ仕様のシャシーを与えられた2ドアモデルは瞬く間に大ヒットとなると同時にレーシングカーとして注目されるようになった。
端正なボディ・過激なチューン
2ドアのミッチェリがレース場に現れ、活躍するようになるとランパダーティはミッチェリGTの名でレース向けの仕様を市場に送り出した。
ミッチェリGTの外見そのものは通常のミッチェリと何ら変わりのない、強いて言えば四角かったドアミラーが小さめの丸型の物に置き換えられた程度の違いしかなかった。
しかし、"GT"の過激さは外からは決して目に見えない部分に徹底して詰め込まれていた。
エンジンは1気筒あたり2本のスパークプラグを持つ"TSヘッド"── 4ドア版レースカーと同じシリンダーヘッド── への換装やエンジン各部にマグネシウム合金を採用するなど当時最先端のチューニングが施され、ボディ外板は全て軽量なアルミパネルへと置き換えられた。
こうした改良による2ドア通常モデル比300kgの軽量化と20psの出力向上が図られた結果、ミッチェリGTはまるで別物のような運動性能を手に入れることとなった。その最高速度は時速125マイルに達し、1.6L自然吸気エンジン搭載車としては当時抜群に速かったのは言うまでもないだろう。
理想のスポーツカーはここにあった!
薄く、軽いアルミドアを開けてレザー張りのバケットシートに滑り込む。
スエードにレッドステッチが眩しい3本スポークのステアリングとその奥の大径タコメーター&スピードメーター、センターコンソールにも各種メーターがずらりと並ぶ。見た目に反して随分とレーシーなコクピットだ。
2,3度アクセルを煽ってキーを捻るとグォン!と荒々しい音とともに始動。アイドリングはやや不安定で音量もかなり大きい。
シフトレバーをを"左下"へと動かし1速へ。オイルが巡ったばかりのエンジンを労わるようにゆっくりと車を出し、トラフィックに加わる。
4000回転程度を維持しながら時速60マイルで走っているだけでもエンジンの熱い鼓動が伝わってくるようなサウンドに気分が高揚する。イタリア人は世界一仕事が出来ないが車作りは世界一上手い人種であると痛感させられるようだ。
しばらく走り大通りを外れてチリアドのワインディングへ向かっていく。チリアドはキツい登り坂となる。古い1.6L自然吸気エンジンでは厳しいのではないだろうか? ミッチェリGTは当初抱いていたそんな懸念をガソリンと一緒に焼き尽くすような元気な走りでグイグイ山を登っていく。
その加速力はエンジンが一回り大きいのでは と錯覚するほどで少ないパワーでスポーティな走りを得るには軽量化がいかに大切かを思い知らされる。
ハンドリングは適度な踏ん張りとピーキーさで思い通りにノーズの向きを変えられる絶妙なセッティング。コーナリングの速い車は数あれど、ここまでコーナリングの楽しい車は数えるほどしかないだろう。
次のコーナー、その次のコーナーとクロスした3速と4速をフルに使って攻めていくうちにチリアドトンネルへ。名残惜しいが試乗はここでおしまいだ。
最後に
イタリア車というのは得てして強烈な魅力を持っているがミッチェリGTは格別に魅力的── いや、中毒的だ。一度乗ると病み付きになってしまうような車というものは意外にも少なく、出会いも限られている。もし、貴方がミッチェリGTを狙っていてチャンスが巡ってきたならば、そのチャンスは絶対に逃さないようにするべきだろう。