Rides Against

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Vol.15 21世紀マッスルカー論 -2015 Vapid Dominater 50th Anniversary "GTX"-

ヴァピッド ドミネーター GTXf:id:LsCarLife:20180818162556j:image

50年目の大進化

  「最もアメリカを象徴する車」と言えば、皆さんは何を思い浮かべるだろうか?恐らく新しめの車の名前はポンポンとは上がらないだろう。はっきりいって落ち目の現在のアメリカ車市場、名前が挙がるのはきっと1950〜1975年あたりの黄金時代の車たちではないかと思う。

 その中で一際魅力的なカテゴリーに「マッスルカー」というものがある。大衆向けのスポーティな中型クーペにハイパワーなV8エンジンを搭載した、世界でもアメリカにしか存在しない唯一無二の存在。そのマッスルカーの起源となる、大衆向けのスポーティな中型クーペ「ポニーカー」のカテゴリーを生み出した車がヴァピッド ドミネーターである。

 今回紹介するモデルは、2015年に生誕50周年を記念し450台限定で発売された、初代ドミネーターのスポーツモデルであった「ドミネーターGTX」の名を冠したハイパフォーマンスモデル「ヴァピッド ドミネーター 50thアニバーサリーエディション“GTX”」である。

 50年以上の歴史を持つヴァピッド社の看板モデル・ドミネーターの沿革をなぞりながら、21世紀におけるマッスルカーのあり方を説いていきたい。


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基本的なスペック

販売期間:2015年

乗車定員:2名

エンジン:5.0ℓ SOHC V8

駆動方式:FR

変速機:6速オートマチック

サスペンション:前 マクファーソンストラット 後 インテグラルリンク式

ホイールベース:2,720mm

全長:4,783mm

全幅:2,080mm

車体重量1,690kg

 

元祖マッスルカー

  上述した通り、ドミネーターの歴史は50年以上と、自動車史においてもかなり長く、初代は1965年に誕生した。当時、第二次大戦後生まれの若者たち(いわゆるベビーブーマー)が運転免許を取得する時期を迎えていた。全世代中最大の車の需要が生まれた若者世代、このビジネスチャンスをモノにするべく、各メーカーは最も若者が欲しがる車を市場に送り込む必要に迫られた。

──若者が欲しがる車とは?運転しやすいサイズで、スポーティで、なにより安価なクーペであろう。

  どのメーカーよりも早く先陣を切ったのはヴァピッド社であり、その車こそがこの「ドミネーター」である。同社のコンパクトカー帯のプラットフォームやパーツを流用し、専用に開発されたパーツも極力抑え価格を大幅にセーブ。その上ロングノーズ・ショートデッキのスポーティなルックスと、ホットなV6/V8エンジンは、当時の若者の心を掴んで離さなかった。

  「フルチョイス」と呼ばれるカタログ展開も斬新で、装備を簡素化し本体価格を抑え、代わりにオプション装備を多数用意。購入者が必要なオプション装備をディーラーで選び、自分好みのドミネーターを作り上げる事ができた。この戦略は大成功を収め、Dominater(支配者)の名の通りクーペ市場を一世代で支配。一躍アメリカを代表する車となる。

  これに続きデクラス社、インポンテ社、ブラヴァド社が続々と同じコンセプトの車を市場に送り込み、それらは大衆にポニーカーと呼ばれた。「ポニーカー」とは、乗馬を始めたばかりの子供がまず最初に乗ることになるポニー(子馬)を、免許を取りたての若者が最初に乗る車になぞらえた言葉である(また、「小型なのにスポーティ」という印象を与える効果もあった)。

 その後の1967年に、それまでのドミネーターのラインナップにファストバックスタイルにハイパフォーマンスなチューニングが施されたモデル「GTX」が加わる。その安価さと不釣り合いな程のパワーはたちまちブームを巻き起こし、その後の「マッスルカー」というカテゴリーを生み出し、アメリカ国内外でのモータースポーツシーンで各メーカーが熾烈な戦いを繰り広げることになる。

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↑[初代ドミネーターのスポーツモデル「GTX」。ファストバックのスタイルに走るストライプがレーシーな印象を与え、爆発的な人気を得た。後のマッスルカー全ての手本となる。]

 

“リビングレジェンド”ブーム

  さて、ドミネーターはその50年以上の歴史の中でフルモデルチェンジを繰り返し、現行モデルで7代目であるが、当時戦いを繰り広げたライバル社たちの同世代の長寿モデルの中でもかなり紆余曲折を経ている。

  まず2代目はパワフルかつよりハイパフォーマンスに進化するが、3代目の頃にオイルショック&不景気に直撃。ダウンサイジングとエンジンのパワーダウン、新たに設けられた安全基準による不格好なバンパー…何とも野暮ったいデザインとパッとしない走行性能により、市場での大幅な失速を強いられる。

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↑[3代目ドミネーター。生まれる時代が悪く、100ps程度の単なる面白味のない中型クーペと成り果てる。]

 

  4代目ではより小型化が顕著になり、その上不幸にも開発主導者と経営者との対立が深まったタイミングと重なってしまい、コンセプトがグラついた末の難産となる。ついに標準エンジンは直列4気筒、ボディ全長は4.5mを割り、初代の威厳は欠片も残っていない。しかし、スポーティなコンパクトカーがウケ始めていた市場にはそこそこの好評を得、賛否両論ありながらもシリーズ中最長の14年間に渡り販売された。
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↑[4代目ドミネーター。ほとんどマッスルカーとしての面影は残っていないが、ヴァピッド社としては初めてのターボチャージャー搭載の直列4気筒エンジンが採用された。コンパクトなスポーツカーを求めた当時の若者から人気を得た点は初代と同じと言えるか。]

 

しかし再び大型化し、ハイパワーエンジンが搭載された5台目からマッスルカーとしての姿を取り戻し、ついに6代目に大きな転換期を迎える。

 

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  画像は初代ドミネーターのホモロゲーションモデル「ドミネーターGT450“エリー”」のリバイバルモデル。ヘッドライト横の後付けインテークやダックテイルスポイラー、450cuiV8エンジン等隅々まで初代の仕様を継承している。

 ご覧の通り、かなり初代を意識したデザインであることは誰の目にも明らかであろう。これは2005年当時のヴァピッド社が掲げた「リビングレジェンド戦略」の賜物で、本来1975年には死に絶えたと言っても過言ではないマッスルカーを、あえて当時のテイストを残したデザインにする事で、かつての栄光をオーナーたちに提供するという試みである。かつてのフィールをできる限り残し、そして進化させ、前時代的と言っても過言ではない存在のマッスルカーを現代の市場に送り込み続けるというある意味でかなり挑戦的なマーケティング。それを続ける上での外せない要素…

…オーナー達がマッスルカーに乗り続ける理由──当時の忘れられないエキサイティングなドライブフィール体験と、その記憶に残るアグレッシブなルックスだろう。純粋なマッスルカーが消費者たちの前から姿を消して40年、そのクラシカルとモダニズムが高い次元で融合した6代目ドミネーターは、驚きと賞賛を持って迎え入れられ、初代と肩を並べる程のヒットを記録した。

 また、初代の「フルチョイス」も踏襲し、ベースモデルは3.7ℓV6で$25,000程度の本体価格で用意され、膨大な量のオプション装備やリミテッドエディションを用意。エンジンは6種類に渡り、ブレーキ、ホイール、内装やエアロパーツ、オーディオシステムに至るまでオーナーは自分好みのドミネーターを作り上げることが出来た。

 これに続けと、当時のライバル車を製造していた他メーカーたちもこぞってマッスルカーをリバイバルする。

 同じく現在までモデルチェンジを繰り返しながら長らく製造され続けている、デクラス社製マッスルカー・ヴィゲーロも当時を意識したデザインに生まれ変わり、ブラヴァド社も当時のハイパワーマッスルカー「バッファロー」の名を20年振りに冠したハイパフォーマンス4ドアスポーツサルーンを発売した。アメリカ車業界に「リビングレジェンド」ブームが到来したのである。

 

伝統と進化

  随分と前置きが長くなってしまった。話をこの車に戻そう。

  7代目のドミネーターは、6代目のネオクラシカル路線を当然継承しているが、デザインはよりスタイリッシュでハイエンドカー寄りになり、走行性能や安全性も大幅にグレードアップされている。

  また、ラインナップに新たに直列4気筒+エコブーストのモデルも登場。4気筒と侮るなかれ、エコブーストの力を受けたエンジンは最大で314psを絞り出す。

  それまで時代に逆行し、当時の車の乗り味を再現するためにリアサスペンションに採用されていたリジットアクスルは、ウーバーマフトが採用している事で有名なインテグラルリンク式の独立サスペンションに変更。「速く走らせるには、過去にマッスルカーに乗っていた経験が必要」とまで言われた先代の荒削りな走りを捨て、高い運動性能を得ることが重視されているようだ。

 

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 GTXは、限定生産のハイパフォーマンスモデルという位置づけであるため、その装備はかなり豪華だ。標準モデルよりもボディ剛性は強化され、ボディの内外や専用のホイールにはカーボン素材をふんだんに使用、リアには大型のディフューザーまで取り付けられている。

 

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  420psを発生する5.0ℓSOHC V8エンジンは、現代の車とは思えない程に無骨なエンジンルームに収められており、標準でタワーバーを装備。ボディ剛性の強化が図られている。

 また大型のヘッダースを装着するため、センターが大きく隆起したボンネットも当時のマッスルカーたちを彷彿とさせる。

 

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 テールライト周りが黒いパネルであることも初代と同様。ただランプ自体はかなり先進的なデザインをしており、ウインカー、ライト、バックライトが奇抜な形状で配置されている。また追突された場合のドライバー保護の観点から、リアバンパーは後方になだらかに突出している。

 

実際に乗ってみた

  いよいよ実走に取り掛かる。ドアを開け、例に漏れず内装からじっくり紹介していこう。

  まず目に飛び込んで来るのは、そのあまりにもスポーツカー然としたアシンメトリーダッシュボードである。f:id:LsCarLife:20180824154704j:imagef:id:LsCarLife:20180824155257j:image

  人間工学に基づいた、無駄のない曲線を基調としたスタイリッシュなデザインは、ドライバーの心を確実に昂らせてくる。レザー製ダッシュボードのステッチはボディカラーと同色。オートマチックだがステアリングにはパドルシフトが用意されているのも近年の流行を採り入れている。


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 シートもかなり先進的なデザインをしているが、柔らか過ぎず適度なホールド感があり、確実な実用性を併せ持っていると感じた。長距離ドライブが当たり前のアメリカでは、長時間座っていてもストレスを感じないシートが求められるが、ドミネーターはかなりレベルが高いと思う。

  またGTXはドミネーターのラインナップで初めて2シーターを採用しており、走りへの姿勢が本物であることを伺わせている。

いざ公道へ。


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 低速ではV8特有のゴロゴロという音を響かせるが、多くのマッスルカーが採用していたOHVエンジンと違いSOHCであるため、アメリカンというよりもベネファクターのV8モデルのようなサウンドに近い。f:id:LsCarLife:20180825005109j:image

  加速していく。電子制御6速オートマチックは、ダイレクト感のある極めて俊敏な変速フィール。ステアリングに備え付けられたパドルシフトを使えば、好きなタイミングでシフトダウンし、瞬発的な急加速を味わうこともできる。シートに両肩を押し付けられるような急激なトルク感という、マッスルカーの醍醐味を今現在でも現行モデルで体感できるのは嬉しい限りだ。

 今や600ps越えは当たり前のハイパフォーマンスカー界隈、420psと少々抑え目な数値に見えるが、この車の味付けはあえて暴れ気味に設定されていると感じる。深くアクセルを踏み込めばV8の本気が目を覚まし、他の車では感じることのない独特なパワー感を感じさせてくれる。コンピューター制御も比較的抑え目なようで、その気になればテールスライドもできてしまえるだろう。

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  ボンネット周辺が肉厚なため、ドライバーズビューに不安があったが、乗ってみるとその心配は無用であったことがわかる。先代よりもルーフが50mm近く低くなった分、シートレイアウトも見直され、少しばかり後方へ移動。結果視界はより良くなったとの評価を得ているという。

  確かに、フロントウインドウの圧迫感はほとんど感じられず、他社のスポーツカーよりも視界にストレスを感じない。


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  何より特筆すべきは大幅にグレードアップされたコーナリング性能に尽きる。以前の仕事で先代のドミネーターに乗ることは多々あったが、明らかな進化を全身で感じることができた。

  新たに採用されたインテグラルリンク式リアサスペンションは、単なる独立式サスペンションではない。二重防振マウントを介してボディに装着されたアルミ製サブフレームと5本のサスペンションアーム。縦横前後をメイン・サブフレームで分担することによるその機構は、乗り心地を犠牲にせず従来の独立式サスペンションと一線を画す直進安定性とハンドリングを持つ革新的なものである。この足回りをドミネーターは全グレードに装備。有り余るパワーを力ずくで抑えコーナーを辛うじて抜ける、そんな時代はマッスルカーにとってももう終わりなのだろう。

  自分の意思の通りに車体は向きを変え、路面の凹凸をスムーズにいなし、アクセルを踏み込んでもテールをぶんぶん振り回すことは無い。人によっては物足りなさを感じるかもしれないが…

 

総評

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  さて、冒頭に「現代におけるマッスルカーのあり方とは」と前置きしたが、1965〜75年当初のモノと現代のマッスルカーでは全くの別物であることをわかって頂きたい。当初のような、プラットフォームやパーツは流用品で、ボディだけが別物のポニーカーをチューニングしたある意味で質の低いスポーツカーの猿真似でしかなかった存在には留まっておらず、専用シャーシに専用のパーツがほとんどを占める現代のマッスルカーは、価格も決して安くはない。それなのに何故、マッスルカーを求めるユーザーは後を絶たないのだろうか?

  電子制御やハイブリッドシステム等、車を極めて安全で、静かで、それでいてパワフルにすることなどやぶさかでない現代の自動車産業界において、有り余る馬力を持つ騒々しいエンジンを重いボディに載せた荒削りな車をわざわざ造る意味とは?

  答えは乗ってみれば全てわかるはずだ。アメリカで生まれアメリカで育まれたその奇妙なコンセプトの車は、スポーツカーでも普通乗用車でも無い不思議な存在であるが、1度触れた者を絶対に離さない恐ろしい程の魅力を持っている。オーナーは皆その魅力に頭までどっぷり浸かり、プロのレーサーですらフルの力を発揮させるのが難しい暴れ馬を、残りの生涯をかけて乗りこなす為に生きる事を選ぶだろう。それに応えるように、かつてマッスルカーの栄光を築き上げたメーカーたちは、今現在までマッスルカーを作り続けているのだろう。

  かつてのマッスルカー程ではないが、現行のV8ドミネーターは程度のいい新古車でも4万ドルほどの価格で取引されており、同等のスペックを持つ欧州製スポーツカーよりも手が届きやすい。電子制御と安全装備で、限りなく安全に手に入るマッスルカー体験。あなたもこの機会に如何だろうか。

 


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