Vol.21 反骨と共にある進化と伝統 -2019 Bravado Gauntlet A/C HellFire-
ブラヴァド ガントレット A/C ヘルファイア
ブラヴァド流リビングレジェンド
ドミネーター、ヴィゲーロ、そしてガントレット。
2000年代にドミネーター主導で勃興した「リビングレジェンドブーム」。それは1960年代後半から現代まで、その時代ごとに変わりゆくアメリカ車の在り方に柔軟に適応しながら長い長い歴史を紡いできたポニーカー/マッスルカー達を、それらが最も輝いていた時期の姿を思い起こさせるスパルタンで筋肉質なデザインを現代風にアレンジし、エクステリアに纏わせるコンセプトを持った車達を生み出すトレンドである。
もちろん見た目だけでなく、ハイブリッドカーや電気自動車が着実に幅をきかせ始めた当時から大排気量大馬力のV8をどのモデルもフラッグシップに掲げている事を忘れてはならない。
同じくエコロジー思考の世界的流行のさなかそれに逆行する形で生み出され続けるスポーツカーやスーパーカー達とまた一味違ったアプローチでオーナーに至高のドライブ体験を味あわせてくれる存在として、80〜90年代後半に完全に失墜しかけたマッスルカーの地位を完全か、それ以上のレベルに再び押し上げた功績はアメリカ自動車史において非常に重要な歴史の1ページと言えるだろう。
ドミネーターに再び歴史を牽引させる事に成功したヴァピッド、世界戦略車として再び花開いたヴィゲーロ擁するデクラス。
それらのライバルとしてかつてガチンコの闘いを繰り広げ、専ら大排気量大馬力のV8を先鋭的に採り入れ国内モータースポーツ及びマッスルカーエラを先導した由緒正しいマッスルカーブランドのブラヴァドは、大柄なファストバックスタイルで 7ℓ 430psという当時最大級のスペックを誇った、ブラヴァドを最も象徴する1台でありながら1987年に歴史に幕を下ろしたマッスルカー「バッファロー」を、2005年にラインナップに復帰させる事を発表する。
しかしそれは他社が掲げ実践したリビングレジェンドの流れを汲んだ物とは毛色の違ったモノであった。サイズこそ当時と遜色ない迫力あるものだが、2ドアファストバックではなく肉厚な4ドアセダンの車体に、かつてのそれとは似ても似つかない顔つき(どちらかと言えば造形自体はドミネーターのそれに近いともとれる)を持つもはや別の車であった。
エンジンラインナップには6.2ℓ級のハイパワーV8エンジンも用意されたが、どちらかといえばスポーティな若者向けのV6エンジン4ドアサルーンとして人気を博し、それに由来するパッとしない足回りは欧州のスポーツカーと真っ向勝負ができるまでになった同世代のモダンマッスルカー達に遠く及ばないモノであった。
[↑580psを誇るスーパーチャージャー付きV8を搭載するバッファローS。バッファローは同社のピックアップトラック・バイソンに次ぐヒット作となった。]
来たる2009年、沈黙を破りついにブラヴァドはドミネーター、ヴィゲーロのモダンマッスルカー競走に殴り込みをかけるべく、本格的な存在としての1台を造り上げる。
その造形は他のどのモダンマッスルカーよりも70年代に寄り添ったモノであった。バンシーを筆頭に、ブラヴァドブランドの持つあらゆる意味でリミッターの外れた凶暴性を全面に押し出したデザインコンセプトと、もはや悪ふざけの域にすら達する過激なエンジンをラインナップした商品展開で、瞬く間にブラヴァドを再びマッスルカーブランドたらしめる象徴的な作品と相成った。
その名もガントレット。70年代ブラヴァド・マッスルの二大巨頭、バッファローの弟分に位置する、こちらも伝説的なスパルタン・マッスルの名を冠した正真正銘のモダンマッスルカーである。
[↑1971年式ガントレットと比較。顔つきやボディのプレスライン等、徹底的に踏襲しているのがわかる。]
基本的なスペック
販売期間:2019年〜
ボディタイプ:2ドアクーペ
乗車店員:4名
エンジン:7.0ℓ V8 OHVスーパーチャージャー
最高出力:797ps
駆動方式:FR
トランスミッション:8速AT
サスペンション:前 ダブルウィッシュボーン、後 マルチリンク
全長:5,015mm
全幅:1,990mm
全高:1,420mm
ホイールベース:2,950mm
車体重量:2,053kg
ブラヴァドを象徴するグレード
さて、ガントレット、あるいはブラヴァド社の商品展開そのものに言えることだが、ブラヴァドは他の2ブランドと比較して圧倒的に過激なモノが多い事は上述した通り。8ℓのV10エンジンを搭載したヘビーデューティー・ピックアップトラック「バイソン HD10」から、そのエンジンを搭載した独創的な凶悪スポーツカー「バンシー」、580psの4ドアサルーン「バッファローS」と、同型エンジンを搭載するロードゴーイングSUV「グレズリーS」等枚挙に遑がない。
ガントレットはV6から4WD仕様まで実に16パターンものグレードを展開しているが、最も廉価なV6グレード「ST」から数えて2つ上、つまり全体の3段目の「A/C(Avenue/Circuit)」の時点で既に372psを誇る5.7ℓのV8と8速AT/6速MTの組み合わせが基本価格たったの$39,740で出現するのだ。
そしてその頂点に君臨するグレードが、つい今年度ラインナップに新たに加わった今回ご紹介する"A/C ヘルファイア"である。排気量426cuin(7.0ℓ)のV8 OHVは797psもの途方もないパワーを、一般的な93オクタンガソリンを用いたノンセッティングのフルストック状態で発揮。レース用の燃料を用いれば最大で840psまで狙えるという。おおよそ「普通乗用車」としての姿を保つ市販車としては間違いなく世界一の数値であろう。
これは1960年代から、426cuinのレース用エンジンを搭載したプロストックモデルをドラッグレースの有力チームに販売していたブラヴァドが、それらをディチューンしてAvenue/Circuit(大通りもサーキットもこれ1台)として市販していた事も思い起こされる。(その後"A/C"は高性能ブラヴァド車に名付けられるグレード名として定着していった)
滔々と続けられるモダンマッスルカー達のホースパワーウォーズにおいて、常にブラヴァドはその中でも頭1つリードをとりつづけている。
ライバルであるドミネーターは(そもそも今までの歴史で常にそうであったように)あくまで中型の高性能シティーコミューターorグランドツアラーの範疇を出ること無く進化を続け、現行では直4ターボモデルも人気グレードの1つとして顔を並べその性格をさらに強めてきた。最もハイパフォーマンスなGT450でも600psを越えることは無く、自動車としてのバランスを崩壊させずに現代の道路事情・世論事情に適したモダンなマッスルカー体験を提供する存在としての姿を維持し続けている。
では、ガントレットはどうなのか。
逆だ。そのまったく逆を行っている。
[↑2050kgもの車体を0-60mph 3.4秒、最高時速202mph(326km/h)で走らせることができる。車体を包んだ白煙が引く頃には、もうガントレットは地平線の彼方だ。]
マッスルカーというものは言わば走りを知らないスポーツカーの真似事から始まり、カタログ上での排気量や馬力、そして大通りでの爽快な加速感といったものでしか競う事がなされなかった。
Win on Sunday - Sell on Monday(日曜日のストックカーレースで勝利したメーカーは月曜日の売り上げが急増する)という概念は黄金期である1970年代までの話であり(そもそも現代のストックカーレースはストック(純正)のスの字もないが)、モータースポーツが車そのもののコマーシャルにならなくなった現在はますますサーキットというフィールドから距離のある存在となってしまった。
では現代においてマッスルカーをチョイスする意味とは?
マッスルカーに乗りたいから、に他ならないだろう。ブラヴァドはそれを知っていた。
この時代、馬力だけなら500も600も決して珍しくはない。デュボーシーやフィスターのスポーツカーやベネファクターのセダン、コイルの電気自動車だって同レベルのパワーを持っている。だがそれは「パワーに見合う十分な責任感」を伴った高度かつ高価なメカニズムの上に成り立つモノでしかない。市販されるという事はハンドルを握るのはプロではないドライバーである。レーシングカーとしてそれらを長年に渡り安全に走らせてきた実績が十二分にあればこその勇気ある判断なのだ。
その点のバランスを、ブラヴァドはあえて揺さぶりにかかっている。この時代に?冗談だろう?
実際に乗ってみた
さあ、まずはエクステリアから。
ヒット作ゆえ街に繰り出せばあちらこちらでガントレットを目にするが、ひとつ思う事はやはり「'70sに最も近いデザインだ」ということに尽きる。
今や最も似せる事が難しいだろうフェイスもここまで近付けられることに驚いた。フロントはバッサリと切り落とされ(この形状で200mph出るなんて信じられない)、グリルも一段奥に落とし込まれ往年の「悪役顔」も板に付いている。対歩行者安全性や空力的効率など二の次のデザイン至上主義は、近年の保守的で小さくまとまったアメリカ車たちとあまりにも相対的だ。
過激でアイコニックなそのエクステリアは、ブラヴァドがガントレットにかける覚悟と本気を物語っている。
[↑大柄なオーバーフェンダーを装着し、横幅は標準の1,925mmから65mmも拡大された1990mm。2mの大台にあと一歩というところ。]
ガントレットとしてはシリーズ初のオーバーフェンダーを装着。その古めかしいスタイルと相まってまるでレストモッド・カスタムを施されたかのような雰囲気を纏う。
従来の四角く切り抜かれたフェンダーアーチのかなり下を宙ぶらりんにタイヤが収まるスタイルは影を潜め、些かレーシーな雰囲気を獲得している。
また、テストトラックでは標準のボディのラップタイムを2秒ほど縮めることに成功しているという。
カスタムパーツはそれだけでは無い。今やガントレットの代名詞となった、ボンネットからエアクリーナー一体型のエアスクープが顔を覗かせる「シェイカーフード」も、ヘルファイアではカーボン製の物が装着されている。また放熱用のエアダクトも追加され、元々定評のあった冷却効率をさらに高めている。
いついかなる時も最大限のパワーを発揮できるようスタンディング時にあらかじめスーパーチャージャーが55%のトルクを掛け続けるトルクリーバーサーを持つのと同時に、エアコンの冷媒を用いてインテークエアーを強制冷却するパワーチラー、エンジン停止後もクーリングファンとクーラントポンプを回し続けるアフターランキラーも備え、そのハイパワーを発揮しても尚、車として恒久的に乗り続ける事ができるようエンジンのセルフケア機能も抜かりなく装備されている。
フロントリップに装着されたブルドーザーのような大型スポイラーもヘルファイア特別パーツ。その強大なパワーゆえ、加速時にノーズが持ち上がりハンドリングが低下する事を防ぐ為のれっきとした実用品である。
この車のデザインにおいて数少ないモダニズムを感じさせるのがこのエキゾースト一体型のリアディフューザー。直進安定性への付与だけでなく、クラシカルな全体の雰囲気と上手くマッチしている。
お次はインテリア。
ドアを開ければそこに古き良き往年の姿を重ねることは出来なくなるだろう。ダッシュボードやトリムの端々にレザーを取り入れてはいるが、面積の大部分を味気ないプラスチックが占める。肉厚なステアリングには各種快適設備のコントローラーに、8段ギアを操れるパドルシフトが備わる。
マテリアルが少々チープな印象を与えるが、むしろブラヴァドは昔からこうだ。10万ドル越えのバンシーより遥かに上質である。その上、フロントシートにはヒート&ベンチレーション機能も備わっており、ステアリングにもヒーターが仕込まれている。
センターコンソールには「CSTQH」と呼ばれるコントローラーが存在し、ドライバーが求める走りに適したスタビリティマネジメント、トラクションコントロール、ATギアのキャラクター等のプリセットが、アシストの強い順に「CIVILIAN・SPORT・TRACK・QUARTER・HELLFIRE」と並んでいる。尚、ドラッグレース用セッティングの「QUARTER」、オールアシストoffの「HELLFIRE」を選択するには、トリュファードのように納車時に渡される専用のキーを差す必要がある。
エンジンをかける。
驚いた。拍子抜けする程静かに7ℓのV8は目覚め、乾いたリズムを刻む。標準的なV8ガントレットとさして変わらない音量と振動は、まさに爆音と言うべきバンシーの系譜を継ぐ存在としては驚くべき大人しさだ。
確かに巷のファミリーカーと比べればさすがに騒々しいが、スタートの第一声でドライバーのモチベーションを上げるにはこれくらいじゃないと話にならないだろう。筆者的にはもっとうるさくてもいいと思う。アイドリングに合わせてその名の通りシェイカーフードが左右に振動する様子が車内から見えれば、水温と同じくこちらのテンションも上がるというものである。
チャンネルを「CIVILIAN」に設定し、様子を伺うとしよう。
走り出しはそこまでのパワーは感じない。シフトフィールもスムーズでショックもほとんどなく、相変わらずのスキップシフト癖も相まって街乗りでは4〜7速間を行き来し、踏み込みさえしなければストレスの欠けらも無いクルーズを提供してくれる。
そう、踏み込みさえしなければである。
見るからにストロークの長いアクセルペダルを3cm程度踏み込めば、今までどこにそんなパワーを隠していたのか、地の底から湧き上がるようなV8の咆哮とスーパーチャージャーの甲高い過給音、シート裏から生えた腕が両肩を羽交い締めにするような猛烈なGで思わず声が出る。これで街乗り用プリセットなんだから、ブラヴァドめ、やりやがる。と膝を打ちつつ冷や汗を拭う。
[↑ひとたびその凶悪なエンジンに力の片鱗を求めてしまえば、アクセルを緩めてもヒートダウンついでにド派手なバックファイヤを連発する。]
しかし何とも、ペダルの加減に慣れさえすればこれ程スムーズに流せるコミューターは無い。狭苦しいダウンタウンはともかく、大通りやフリーウェイで加減速を繰り返すような場面では、次の加速の為の減速が楽しみで仕方が無いほどだ。少々の加速など彼にとってほんの僅かな労働に過ぎないかも知れないが、控えめなエキゾーストを発しつつ5速でグーーーッと車体が前進する感覚は、一度味わえばたちまち虜になること間違いなしだ。
ハイウェイの合流でもキックダウンの必要なく、少しばかりペダルを踏み込めばすぐさま他の車の横に並ぶことが出来る。今やすっかり少数派となったOHVエンジン特有のゴロゴロとしたサウンドに乗っかるキィーーンというスーパーチャージャーの過給音に、まるで獣に追い立てられるような恐怖を感じアクセルを緩めてしまうことすらあった。
ちなみに、フルスロットルを与えれば1分間に5.4ℓのガソリンを消費し、18.5ガロン(70ℓ)のフューエルタンクを空にするのに11分も掛からないほど燃料充填率が高いという。反面、ハイウェイでの燃費は平均9.8km/ℓと意外すぎる程普通。常にガスガズラーではないと言う点がまさに最新の車と言ったところ。
ハイパフォーマンスパッケージとは言え足回りの味付けはあくまでコンフォートライドである事は明確に感じ取れる。マルチリンクのリアサスペンションは一世代前のドミネーターの様に車軸式のトーションビームでは無いため荒削りさは鳴りを潜めているが、些か同価格帯のスポーツカー程融通は利かないと言える。が、この乗り味でここまでの粘りを持つ点はむしろ評価されるべきかもしれない。ワイドボディ化の恩恵でもあるだろう。
コーナーを抜け、極太のトルクを後輪に送り込もうとアクセルを踏み込むが、TCSが制御をかける為テールスライドとは行かなかった。「CIVILIAN」は一般道でのドリフトは推奨していないらしい。
せっかくの200mphも安全に止まれなければ派手な自殺に他ならない。ベースグレードのA/Cから大幅に強化された6ピストンキャリパーを備えるブレーキはズドン!とした味付けで確かな安心感をもたらしてくれるが、足回りのスペックが2トンもの車重を急激に減速させる際のバランスの乱れからは、完全に逃れられるまでには至っていない。コーナリング性能に関してはハイエンドなインテグラルリンク式のリアサスペンションを備えたドミネーターに譲る。
その上頭が重いようで、時折繊細なアンダーステアが顔を覗かせる度に夢心地なドライブから現実に引き戻される。この点はスポーツカーになりきら(れ)ないガントレットの性格をアクティビティとして受け入れる気概を持たざる者にはリアルな欠点として映るだろう。
アグレッシブなドライブでのブレーキのフェードも心配無用、メーターパネル内のアクティブインフォメーションにはブレーキキャリパーの温度も表示される。余裕あるドライブで暴れ馬を乗りこなそう。
期待と不安が入り混じる中、ブラヴァド社有地にて「QUARTER」セッティングをテスト。TCS完全offの、その名の通りクオーターマイル(ドラッグレース用400m直線コース)を走るセッティングで、スタート前にリアタイヤを温める為のバーンナウトを行えるようになっている。
借り物な上、マッスルカーは好きなだけで大した数乗ってこなかった筆者、戦々恐々しながら控えめなバーンナウトを炸裂させるとブラヴァドLS支店営業部長Anthony Davidson氏が苦笑いしながら手本を見せてくれた。試乗車と言え履いているのは1本$640する305/35のアトミック社製スポーツタイヤ・フライラップTPである。
毎度思う事だが、ブラヴァド社は営業部と本社との風通しが本当に良い。ここまで気前が良くなければハイパフォーマンスカーのレビューにも支障が出ることを知ってか、ガンガン踏ませて、曲がらせて、走らせてくれるのだ。
[↑耳を劈くエキゾーストとゴムの焼ける匂い。本気のバーンナウトでたちまち白い煙に包まれたガントレットが視界から消える。]
[↑テールスライドすら思う存分やらせてくれるブラヴァド社営業部の懐の深さと言ったら。]
充分にリアタイヤが温まったところで、マニュアルシフトモードを用いて擬似的なゼロヨンを行うとしよう。
停車状態でガスペダルを煽ると、目にも留まらぬ速さでタコメーターの針がレッドゾーンに突撃し、非常識な大きさのエキゾーストサウンドが身体中を震わせる。
右のパドルをクリックしニュートラルから1速へ
───内蔵が内側から持ち上げられる感覚!体が、シートが、いや、車体前部が大幅に持ち上がって前に進んでいる。それもそのはずだ。ドラッグスリックを履かせ、レース用燃料を飲ませればヘルファイアを本当にウィリーさせる事ができるのだから。
[↑行き場を失ったトルクはリアタイヤの空転と巻き上がる白煙という結果をもたらす。これはこれで最高なのだが、パワーを上手く路面に伝える的確なアクセルワークがドライバーに求められる。]
意識が飛んだのか?気付けばV8が上げる苦しそうな声と、レッドゾーン内で暴れ回る針を見てハッと我に返る。慌ててパドルをクリックして2速。もうレッドゾーン。クリックして3速。レッドゾーン。4速。レッドゾーン。5速。レッドゾーン……
800psと最高時速200mphを8段ものギアに分担すると5速まで一瞬で到達する。通常のA/CにはHパターンの6速MTが採用されているが、ヘルファイアにはパドルシフト付き8速ATしか用意されていない。
ATのシフトフィール同様、殆どショック無しで一瞬で変速するギアに最新技術の粋を感じるが、反面やはり2ペダルのパドルシフトに物足りないと思ってしまう筆者。
ブラヴァドがイチオシするのは「SPORT」モードだと言うので、試乗のシメに山間部の峠道を爆走。
なるほどこれは良い。ガチガチに制御された足回りのアシストはそのままに「CIVILIAN」よりTCSの味付けが弱めになっており、ある程度踏み込めば後輪がスキールする。上手くコントロールできればテールスライドもこなせる、まさにカジュアルにハイパワーマッスルカーを楽しめるチャンネルである。
コーナー脱出と同時にジワーっと踏みながら、安全に加速できる自信がある姿勢に車体を持って行く。ステアリングがセンターに戻った瞬間に(気持ちだけ)床までペダルを踏みつければ、咆哮を上げるスーパーチャージャーにそれをかき消さんとするスキール音、ルームミラーを一面塗りつぶす白煙。
リアタイヤがドライバーを追い抜こうとしているのがわかった刹那、スタビリティコントロールが作動し車体がそそくさと元の姿勢に戻される。その旧態的な古き良きマッスルカー体験と現代的な電子アシストが背中合わせで存在する事実に思わずニヤついてしまった。
これがブラヴァドが提唱する2019年の最先端マッスルカーの姿だ。
総評
あらゆる車をある程度は手に入れられてしまうほどの財力を持つ人間はここSA州にもごまんと住んでいるが、彼らが何故ヨーロッパ製のスーパースポーツを乗り回しガントレットヘルファイアに乗らないのか、筆者には不思議でならない。
800ps、0-60mph3.4秒、最高時速202mph。これらの性能にたった9万ドル台のプライスタグが下がっている国など、アメリカ以外存在しないだろうに。
しかも、4人がゆったり座れるシートに広い車内、旅行に耐えうる広いラゲッジルームにあらゆる安全装備と至れり尽くせりの完全なる実用車なのだ。同額で買える車といえばせいぜいウーバーマフトのセンチネルが良いところ、しかも馬力はヘルファイアの半分しかない。グロッティよりハイパワーで、ペガッシより快適で、フィスターより実用的で、ウーバーマフトより安い。アメリカはなんて素敵な国なのだろう。
もし車の購入を検討中のリッチメンが読んでいるなら、そのトリュファードと一緒にヘルファイアも買ってしまうといい。きっとこっちしか乗らなくなるから。