Rides Against

Rides Against(ライズ アゲインスト)─グランド・セフト・オートシリーズにおけるロールプレイングコミュニティ「RP_JP」発の、複数人によって運営される自動車総合情報サイトです。主にGTA5内に登場する架空の自動車を、現実世界の媒体に負けない熱量で、リアルにレビューしていくという活動をここで発信しています。(モデル車両のスペック及び史実との乖離に関してのご意見、ご感想は一切受けかねます。)

Vol.23 レーシング・ファミリーカー -1984 Vulcar Nebula Turbo-

ボルカー ネビュラ ターボ
 
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 ホモロゲーションモデルとはあまりにもユニークな存在だ。ツーリングカーチャンピオンシップやWRC、DAYTONA等、市販車両をベースとしたレーシングカーを用いる自動車競技では、「ベースとなる車両を規定の台数以上生産・販売しなければならない」というレギュレーションが定められている。

  あくまで市販車両を用いるレースであるという建前を守る為のルールと言っても過言ではなく、チューニングできる範囲が狭い競技であればあるほど、ホモロゲーションモデルとなる車両はレーシングカーに性能が近く、おおよそ公道を走行するには適しているとは言い難いモンスターマシンである場合が多い。ヴァピッド フラッシュGTやカリン サルタンRS等のラリーカー、ウーバーマフト センチネルXS-3やベネファクター シャフター400R等のツーリングカーが代表的な例だろうか。その特徴はなんと言っても「一見、標準モデルとあまり変わらない見た目なのに、大幅なチューニングが施されている」という点だろう。このギャップと特別感が、マニアの心を掴んで離さないのだ。

  隣人が乗る冴えないハッチバックがターボで武装した200psのマシンだったら?愛好家のミーティングに1人だけ800台限定モデルで乗り付けたら?世間体を気にせず、涼しい顔でレーシングスペックのマシンを所有し、週末の夜、買い物帰りに人気の無い山道で存分にその性能を楽しむことができたら?

  ピュアスポーツカーでは得ることのできない体験が可能なその存在は、市販車ベースのモータースポーツがこの世から無くならない限り、エコロジー志向の情勢の中でも決して途絶えることは無い。むしろ、ベースグレードの環境性能や実用性が著しく向上した今だからこそ、ホモロゲーションモデルの特異性が増し、マニア心をくすぐる“アンタッチャブル感”がより顕著になった印象がある。

  5シーターに充分なラゲッジスペース、大袈裟なオーバーフェンダーもスポイラーも持たないコンパクトスポーツなら(ドライバーのあなた自身が静かに運転する技術を持ちうるならば)家族ですら気付くことはないかもしれない。祖母の急な危篤に駆けつけたって、家の前に止めておいても何の問題も無いのだ。

 


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 今回ご紹介するのは、ツーリングカーチャンピオンシップに出場する為にスウェーデンの自動車メーカー・ボルカーが生み出した「最速のファミリーカー」ことネビュラ・ターボ。

  マニア垂涎の1台でありながらモータースポーツ史の陰に隠れがちな彼を、徹底的にレビューしていこう。

 

基本的なスペック



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販売期間:1983〜1985年

ボディタイプ:2ドアセダン、4ドアセダン

乗車定員:5名

エンジン:2122cc 直列4気筒8バルブ SOHC インタークーラーターボ

最高出力:225ps

サスペンション:前 マクファーソン・ストラット/後 5リンクコンスタントトラック

駆動方式:FR

変速機:5速マニュアル

全長:4818mm

全幅:1725mm

全高:1415mm

ホイールベース:2650mm

車体重量:977kg

生産台数:500台

 

最速のファミリーカー
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  1974年に誕生したネビュラシリーズは、質実剛健そのものと言ったイメージの車だった。シンプルで癖のないスクエアなエクステリアに、2ℓそこそこの排気量を持つ軽快な直列4気筒OHVエンジン、極寒の地スウェーデンを感じさせる高い防寒性と耐久性に、先進的な安全装置、そして標準で酸素センサーを搭載するほどの環境意識の高さで、瞬く間に世界中の自動車市場に名を轟かせることになる。ここアメリカでも例外でなく、非力で小さく壊れやすい欧州コンパクトカーの実用面を広くカバーする形で、日本車、ドイツ車に次ぐミドルクラス車の第3勢力として名を馳せた。

  同一のプラットフォームで2ドア、4ドアだけでなく5ドアステーションワゴンも用意され、車格の割に長すぎると揶揄されがちだった全長はワゴンになると大きなアドバンテージとなり、アメリカ車に無い知性を感じさせるスマートな佇まいと広々としたラゲッジスペースは他に競合も少なかった。リベラル派のアッパーミドル層に絶大な支持を得、それまであくまで個人のシティーコミューターとして用いられることの多かった欧州車のイメージを覆し、アメリカ国内でシティ派ファミリーカーとしての地位を築くまでになった。ボルカーの輸出台数の約50%がアメリカ向けだったというデータが何よりそれを示しているだろう。

  勿論、そういった評価の高さは欧州でも言わずもがなで、兼ねてより工業国として絶大な信頼を持っていたスウェーデン肝いりのボルカーのプロダクトは、自動車に求められるあらゆる要素を高い次元で実現し、名の通った自国メーカーを持たない国々にも広く浸透していった。




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  そんなボルカーがさらなる飛躍の舞台に選んだのは1980年代のツーリングカーチャンピオンシップ。ピュアスポーツカーではなく、あくまで一般的な移動手段として使用されるツーリングカーをベースとしたマシンで行われるレースは、既存の車両を厳しいレギュレーションの範囲内でチューニングするエンジニアリングスキルが高く求められる為、“職人気質のヨーロッパ人”を多く擁する参戦メーカーのコマーシャルとしてWRCと並び絶大な人気を誇るレースだ。

  当時、熾烈なトップ争いを繰り広げていたのは大排気量V8を搭載するウーバーマフトとオセロット。車格も価格も一回り小さいボルカーは2ℓクラスの直列4気筒/5気筒エンジンのノウハウしか持ち合わせておらず、スポーツカー開発の経験も乏しかった。

  そこで、当時世界中で勃興していたターボチャージャー開発ブームにレーシングチームとしてかなり早い段階で乗り出し、2.1ℓの直列4気筒エンジンに大径ターボチャージャーを搭載しパワーを底上げする戦略を敢行。

  欧州製市販車として初めてターボチャージャーを採用したウーバーマフトですらその信頼性の低さ故レーシングカーに搭載するのを躊躇する中、その高い工作精度と耐久性に裏打ちされた信頼性に、常に着いて回った冷却性能の問題を吸気管内に直接水を噴射する「ウォーターインジェクション」の採用によりいち早くクリア。

 鳴り物入りで参戦したネビュラ・ターボは900kgの車重に368ps、最高時速260kmを叩き出すエンジン、ビッグシングルタービン由来のドッカンターボを華麗にコントロールするドライバー、縁石で飛び跳ねまくるアグレッシブなドライブを耐え抜く高いボディ剛性を武器に早々にトップ争いへ。あまりにもレーシングカー離れしたその垢抜けないスクエアボディと走りのギャップから「フライングインゴット(空飛ぶ鋳塊)」の愛称で親しまれ、1985年には前年の王者3.5ℓV8のウーバーマフト ザイオンCSを相手に激戦を繰り広げ、16戦中9勝を挙げシリーズチャンピオンに輝く大活躍を果たした。家族5人を乗せて街を走るファミリーカーが高価なツーリングカーを打ち破る劇的なシーンは、世界中のモータースポーツファンに衝撃を与えた。

 

  そのジャイアントキリングを果たすべく、ボルカーが開発したツーリングカーチャンピオンシップ用ホモロゲーションモデルこそが、今回ご紹介する「ネビュラ・ターボ」である。



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   2.1ℓ直列4気筒に後付けされたターボチャージャー、ボディ剛性の強化に専用サスペンションと、現在の基準から見れば生産台数たったの500台という数字は些か大袈裟じゃないか?と思えてしまう。 はっきり言ってそんなものはオプション装備か上位グレードの用意で事足りる程度のモノで、まるでオーダーしたスーツがシングルかダブルかの違いでしかないのでは?と。

 

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[GB200Eのレビューはこちらhttps://lscarlife.hatenablog.com/entry/2018/07/17/131819]

  例えば、幻のグループB車両として名高いヴァピッドのGB200Eは公道を走るにはあまりにもオーバースペックで、メーカーからすればリスク以外の何物でもない存在であったり、ランパダーティ トロポスはエンジンから油圧計の針に至るまで全てが専用設計で、会社が潰れるほど心血が注がれた走るオーパーツだ。これらは限定5台だろうと誰一人として疑問を持たないだろう。

  しかし、ネビュラ・ターボは?あまりにもネビュラだ。

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[↑巨大なバンパーは当時のボルカーの安全意識の高さを表現するシンボル。アメリカ国内で義務付けられた「5マイルバンパー」を凌ぐ分厚さだ]

  追加の外装パーツはフロントバンパー下部のスポイラーとフォグランプ、マッドガードのみで、それ以外は「TURBO」を誇らしげに掲げる80年代センスのストライプとデカールが走るのみ。これではまるで、貧しい若者が安く買い叩いたボロのファミリーカーを一生懸命カスタムして、自分流に染め上げた若気の至りの結晶ではないか。

  しかしながら、もし、このスタイルの車が高い走行性能を隠し持つとしたら?この車を元に作られたレーシングカーがサーキットで暴れ回っていたとしたら?こんなワクワクする事は無いだろう。

 

実際に乗ってみた


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  やはり真っ先に目を引くのはノーズサイドからトランク上部までグルリと回り込む派手なストライプとデカール。しつこいようだが、この車のエクステリアにはこれ以外に特筆すべき点が無い。「見る人が見れば感じる只者では無い雰囲気」すらほとんど漂っていない。辛うじてソーサースタイルのアロイホイールが足下で鈍く光っているが、全体のテイストに馴染みすぎていてむしろ標準ホイールよりしっくり来ているくらいだ。


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  車格の割に長大なボディに一役買う大口のトランクを開けると、そこにはアメリカで生きていくには必要充分な容量のラゲッジスペース。内張りを持ち上げるとスペアタイヤもレンチも何一つオミットされておらず、軽量化にはあまり熱心ではないようだ。

 


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  インテリアに目をやるとこちらも標準モデルとの大きな違いは無い。黒いプラスチック製のダッシュボードは日に焼けて相応の劣化を遂げ、エアコンもラジオも排する事なくコンソールに鎮座。シフトレバーの手元を彩るのは油圧計でも負圧計でもなく外気温計と時計である。唯一、世界に先駆けて市販車に採用し、ボルカーのアイデンティティでもあるエアバッグを排したスパルタンなステアリングが雰囲気を演出するのみ。本当にレーシングカーのベースなのか?ますます信じられなくなったまま、ドライビングシートへ。

 いざ、出発だ。キーを回す。

 


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  なんて、静かなのだろうか。

  もちろん、その常軌を逸した防寒性能を実現するボディ気密性の高さ故、まるでエンジンそのものが30フィート向こうに行ってしまったかのような感覚になる遮音性も相まってだが、80年代製の車だということを考えてもジェントルなサウンド。近いモノで言えば、同年代のカリン・イントルーダーやアルバニー・ヴァーゴのような高級サルーンのそれに通ずる。  

  ただし、それはあくまで遮音性が立派な仕事をしているドライバー視点での話であり、キッチリ踏み込めば車外にはヨーロピアンスポーツ譲りの軽快な4気筒サウンドと豪快な加給音を響かせる。夜間のドライブには要注意だ。



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  街へ繰り出すと、彼は早速その片鱗を見せ始める。

  まずは日常使いよろしく低速でのシフトチェンジ。筆者はネビュラの数回の試乗経験があるが、このモデルはレーシングスペックだけあってやはりクラッチは重くシビア。油断すると交差点で赤っ恥をかく羽目になる。


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   ベースモデルよりほんの気持ち程度ローダウンされただけに見えるサスペンションは、見た目よりもかなりソリッドな印象。 

  街中で繰り返されるストップ&ゴーの度、速度の変化と車体のロールとの時間差の短かさはまさにスポーツカーのそれであり、グッと車体全体で加減速を行っているイメージが脳内に浮かぶ。荷重移動のレスポンスの速度はモータースポーツにおいて重要な要素であり、市販向けに下手に“漂白”されたスポーツカーよりこういったホモロゲーションモデルの方がリアルに感じ取ることができる。


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  ベースモデルにプラスして装備された前後のスタビライザーとエンジンルームのタワーバーは、FRP化されたボンネットやトランクによる軽量化及び車体重心の低化の恩恵を何倍にも増加させ、この愚直なクーペに“シャキッ”としたレスポンスを持つシャープなハンドリングを持たせることに成功している。

 


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  足回りの次はエンジンのテイスティングに移る。端正に正確なリズムを刻み続ける4気筒はガスペダルを踏み込み回転数を上げると、2800rpm付近に差し掛かると相棒であるターボチャージャーをベッドから叩き起す。3500rpm付近から増幅し始めたトルクが4000rpmに至ると競走馬の様に一気に飛び出し、突き上げるようなエキゾースト音と共に体がシートに押し付けられる。

  これだ、これぞ'80年代ターボスポーツの醍醐味!当時出たてでまだまだ熟成しきっていない制御システムの限界から、大容量のシングルタービンを用いたエンジンは高回転に達しないとブーストが掛からない所謂「ドッカンターボ」の特性を持つマシンが多い。とりわけ小排気量・高回転型エンジンの欧州製コンパクトスポーツの乗り味はアグレッシブで他では味わえない中毒性があり、ネビュラと時期を同じくしてラリーのフィールドから産まれたオベイ・オムニスやツーリングカーチャンピオンシップで長年ライバル関係にあった欧州ヴァピッドのウラヌス、ターボコンパクトの先駆けであるBF・クラブGT等、そのドライブフィールには現代の車にはない凶暴性があった。


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総評

  旧式の、それも神経質なターボエンジンを搭載したスポーツカーを乗り回すには相応の緊張感がある。もちろん、そのピーキーなパワーバンドや引き締められた足回り、徹底した軽量化により損なわれた快適性は現代の普通乗用車に飼い慣らされた我々に大きなストレスを掛けてくる。

その上、極端にセッティングされたメカニズムは素人の手の内ではあっけなく故障する。「1年修理して、半年乗って、また1年修理する」と言うあまりに自分勝手なスケジュールをオーナーに課す車など、ジョークではなく実際にごまんと存在するのだ。寝ている赤子を持ち上げてベッドに運ぶようにクラッチを踏み、エンジン音よりも車体から発せられる異音に常に耳を傾け、出発前に神への祈りを捧げるルーティンを欠かさない。それこそ、そんな毎日を楽しみに転換できる程車に飼い慣らされる必要があるのだ。

 だが、ネビュラ・ターボを乗り回すと、そんな不安がみるみるうちに霧散していく感覚がある。堅牢・安全・シンプルが信条のボルカーは、例えハイパフォーマンスのホモロゲーションモデルですらドライバーを安心感で包み込む。まるでこのまま何万マイルも突っ走っていけそうな機関部の信頼性と、雪国仕込みの遮音性と断熱性。下手なテントよりぐっすり眠れる。

ガレージに仕舞いこんで自分だけの酒のツマミに眺めるなんて勿体ない。どんどん走らせて、この車に気付いたカーフリークをニヤリとさせてやろう。

   「レーシング・ファミリーカー」は伊達じゃない。

 

 


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