Vol.14 究極のスーパースポーツ 1993 Progen GP1
プロジェン GP1
昔のスーパーカーといえばどんなイメージがあるだろうか。
実用性がない。居住性が悪い。操縦性が悪い。スペックだけで実際は大した速さではない。
そんなイメージに真っ向から立ち向かった車がある。プロジェンGP1だ。
基本的なスペック
販売期間:1993-98年
ボディタイプ:2ドアクーペ
エンジン:6.1L V12 DOHC
駆動方式:MR
車両重量:1140kg
日常的なスーパースポーツ
先程も述べたようにスーパーカーと呼ばれる車は須らく実用性が犠牲となっていた。
馬力と速度は出るがその他全ての要素が自動車としてまるでなっていないような車がほとんどで、多くのスーパーカーは投機対象やコレクターズアイテムでしかなく、実際に走らせて楽しむには厳しい物があったのだ。
しかしGP1は違った。世界中のスポーツカー・スーパーカーを過去の物にする超高性能でありながら日々の買い物から本気のサーキット走行までこなすオールラウンダーだったのだ。
従順な猛獣
元来スーパーカーというのは乗りこなすのが酷く難しい、人が車のご機嫌をとってやらないといけない乗り物だった。そんな車で思い切り 気持ちよく走ることが出来るかと問われれば、ほぼ100%の者が首を横に振るだろう。
では、GP1ならどうだろうか?乗った者はガソリンが尽きるまで走り回った後に口を揃えてこう言うだろう。
「もう1回満タンにしてくれ」と。
GP1の魅力は誰もをそう言わせる楽しさと乗りやすさにある。
1200キロに満たない車体に600仏馬力を越えるハイパワーエンジンを積むGP1は1トンあたり500仏馬力を越える強烈なスペックを持つがその操縦性は極めて素直でしなやか。適度な柔らかさを持たせつつも決してフワフワと不快な柔さを感じさせないバランスの取れた足回りと高剛性のカーボンモノコックによってロスサントス市内やフリーウェイの荒い舗装の凹凸を綺麗にいなし快適に走ることが出来るのだ。
その絶妙なセッティングはピッチング方向には適度なソフトさを持ち、快適な一方でロール方向はややハードというもの。しなやかな足回りに組み合わされた硬いスタビライザーによって車体のグラつきを抑え、浅いロールでタイヤを路面にしっかり繫ぎ止めるというレーシングカーらしいセッティングだ。
前後に柔らかく、左右に硬い。このセッティングが低速域での快適さと高速域での楽しさを両立するカギであることは言うまでもないが、その楽しさを知るためには"作法"を学ばなければならない。
レーシングカーを操るための"作法"だ。
GP1のハンドリングは誰もが酷いアンダーステアに感じるというがそれは力任せにステアリングと格闘しているからだ。荷重移動のコツを掴み四輪それぞれ荷重をしっかりコントロールしてやればやや重いステアリングは非常に頼もしく、あたかもレーシングカーのような、高速で自在にコーナーを駆け抜ける極めてレーシーなハンドリング体験を提供してくれる。
GP1は確かに"誰にでも乗れるスーパーカー"だが自在に操るにはレーシングカーを操るための"作法"を知らなければならないという意味では従順でありながらも非常に奥の深い車であると言えるだろう。
そして乗りこなし始めた頃には気付かされるはずだ。これ以上に優れたスポーツカーなど未だ存在しないことに。
意外な一面
GP1はいかにもスーパーカーといったスペックとルックスでありながら優れたツアラーであるという意外な一面を持っている。
GP1のミッドに搭載される6.1Lもの排気量を持つウーバーマフト製V12エンジンは全域に渡ってトルクフル。ローギアから一気に300km/hまで加速することはもちろん、6速2000回転で延々とフリーウェイを流すことまでそつなくこなす優等生だ。
また、巨大なエンジンながらも比較的良好な燃費により、90Lの燃料タンクを満タンにすれば700キロもの道のりを軽々走破することができてしまう。
驚くべきことに、これはたった1回の給油で余裕を持ってロスサントスからサンフィエロ又はラスベンチュラスまで行って帰ってこれることを表す数値だ。世界最速のスーパーカーでありながら一般的なスポーツカーと変わらない燃費を持つのはエンジンがウーバーマフト製だからと言ってしまえばそこまでだがそれ以上に軽く、空気抵抗の少ない車体が効いているのかもしれない。
そしてその航続距離の長さを最大限に生かすのが人間工学に基づいたコックピットだ。
ドライバーの肩から下を包むフルバケットシートは24時間耐久に使われる物と同形状で、疲れ知らずの非常に快適なドライブを約束してくれるし、一般的な3点式シートベルトの代わりに備えられた4点式シートベルトは身体をしっかりとシートに固定してくれるから手足を踏ん張る必要もなく、万一の際にはドライバーをシートに留めてくれる。したがってGP1のコクピットにはフットレストもエアバッグもない。
このようにGP1のコクピットは極めて自然体でドライブに集中できる環境になっている。言い換えればレーシングカーそのもののレイアウトでその恩恵を受けるには少々の慣れを要するとも言える。
しかし、一度慣れてしまえばあらゆる車が霞むほどの素晴らしいドライビング環境に身を委ね、何時間でも何百キロでも走ってしまえるような体験が待っている。
これがGP1が世界を広げる車と言われた所以であり、サーキット直系の技術が惜しみなく注ぎ込まれたGP1だからこその世界なのである。
最後に
上述のようにGP1は決して格好だけのスーパーカーではなく、徹頭徹尾ドライバーズカーとして生まれた車だということがよくわかる。
筆者自身も多くのスポーツカーに乗ってきたがこれほどまでに素晴らしい車には未だ出会ったことはない。この記事によって筆舌に尽くしがたい魅力を持つ究極のドライバーズカーの魅力の一片でも伝わるのならば幸いだ。