Vol.5 ウェルバランスを貫いたスポーツサルーン- 1986 Übermacht Sentinel XS-
ウーバーマフト センチネル
80〜90年代のツーリングカーレースを代表する車は3台ある。エレジー、ウラヌス、そして今回紹介するセンチネルだ。
ご存知の通りセンチネルはウーバーマフト車の中型セダンであり、エントリークラスに位置する比較的安価なモデルだ。2ドア、4ドア、ステーションワゴン。更にはカブリオレと豊富なボディバリエーションを持つことが特徴だがどのグレードも冴えない旧型セダンであることは否めない。しかし今回紹介するのは2ドアセダンにのみ用意されたスポーツグレード"XS"。※1
冴えない印象をミラーの彼方に吹き飛ばすに十分なインパクトを持つホットモデルだ。
【※1.僅かながらカブリオレが存在するようです】
基本的なスペック
販売期間:1985-1990年
ボディタイプ:2ドアセダン
エンジン:2.3L Inline-4 DOHCターボ
駆動方式:FR
全長:4360mm
全幅:1675mm
ホイールベース:2562mm
車両重量:1200kg
たかがセダンと侮るな!
一見エクステリアについて特筆すべき点は特にないように見えるがじっくり眺めると実にバランスの良いデザインであることがよくわかる。
3ボックスの角ばったいかにもセダンといったシルエットながらボンネットからトランクまでまっすぐに繋がる伸びやかなラインは飽きのこない美しさをこの車に与え、更にボディサイドを黒い樹脂製トリムで囲むことで車全体に引き締まった印象を与えている。
また、このトリムはディーラーオプションでカラートリムへと変えることもできた。
足元を支える独特なフラットスポークが特徴のホイールはマルチピース構造でXS専用品。通常グレードより大きくなったPCD径がハイパフォーマンスを予感させる。
堅実で優れたシャシー性能
センチネルはルックスだけでなく、走りの実力も非常に高い。
シャシーは随所に補強が施され、元々高いボディ剛性を更に高いレベルへと引き上げられている。足回りはXS専用のチューニングでスタビライザーが追加された。やや硬めながらもしなやかにロールすることによってもたらされる素直なハンドリングは後述のクロスミッションも相まってFRの楽しさを存分に味わえる。その気になればドリフト走行だってこなせそうだ。
レーシングパターンの5速ミッションのストロークはややロングながらカッチリとした感触を持つ。その硬質なシフトフィールはクロスしたギアレシオやフラットなトルク特性と相まって極めてソリッドな操作感を演出している。
闇雲に排気量を上げるのではなく、過給機とクロスミッションによってバランスを崩すことなく加速性能を向上させているあたりにウーバーマフトの哲学のようなものを感じずにはいられない。そしてこういった当時から拘ってきた走りへの妥協なき姿勢こそが今のウーバーマフト人気に繋がっているのだろう。
エレガントでスポーティ
一通り走りを楽しんだ後はゆっくりとインテリアを眺めてみよう。
車内全体にレザーが奢られたインテリアは実にエレガント。シートはハーフレザーのスポーツシートでセンター部はファブリックで絶妙な硬さが心地良い。
ステアリングはやや太めで"TURBO"の文字が眩しい3本スポークタイプ。奥のメーターは戦闘機の計器をイメージしたもので必要な情報が瞬時に読み取れる優れたデザインだ。
しかしメーターパネル下側に配置されたスイッチ類の使い勝手は決して良いとは言えない。
リアシートはフロントシート同様のハーフレザー。ピラーが寝ていないおかげか大人2人が乗っても縦横ともに十分な広さで日常使いにも不満はなさそうだ。また、肘置きを兼ねた緩衝パッドが備えられているため2ドア車のリアシートながらも十分な快適性を備えている。
最後に
優れたフットワークと程良いパワーを持つセンチネル。現行モデルのようにハイテクで洗練された車ではないが極端に尖ったスペックを持たず全ての性能を高次元にバランスさせるといった基本コンセプトは今も昔も変わらない。
なにより基本設計が30年前であるため構造はシンプルかつ頑強。アフターパーツも豊富でスポーツ走行の入門にピッタリの1台となるだろう。
もし、貴方が本格的なスポーツ走行を始めるためにフトやブリコンといった安価な小型クーペからの乗り換え検討しているならば是非この車を選択肢に追加してみてはいかがだろうか。