Vol.6 地を這うアメリカンドリーム -1957 Declasse Tornado Convertible-
デクラス トルネード
自動車産業の飛躍
第二次世界大戦終結後の1950年代、アメリカは驚くべき速さで経済成長を遂げて行った。朝鮮戦争で刺激を受けた経済は活性化し、雇用も生まれた。
同時に産業の世界も飛躍的に進歩し、それまではひと握りの富裕層や軍以外には手の届かなかった自動車が、庶民にも買える程の値段になって行った。
自動車の普及が新たな流通や観光産業の活性化に拍車をかけ、倍々ゲームのように経済は豊かになっていく。
移民が作り上げた国アメリカ。アメリカに渡れば誰もが“アメリカンドリーム”を掴むチャンスがあると信じ、そしてひたむきに働き、憧れの物を手に入れることに生き甲斐を感じた。
──その憧れのうち大きな1つが、長大なボディにゴージャスなクロームのモール、航空機を思わせる巨大なテールフィンを備えたV8エンジンの高級フルサイズカー達である。
今回は、1951年にデクラス社から発売され、瞬く間にアメリカ国民の憧れの1台になり、今なおその魅力は色褪せることのない名車、トルネードを徹底的に取材していく。
基本的なスペック
販売期間:1951-1957年
乗車定員:5-6名
ボディタイプ:2ドアセダン・4ドアセダン
エンジン:3.5ℓL6・3.9ℓL6・4.3ℓV8・4.6ℓV8
駆動方式:FR
変速機:3速MT・2速パワーグライドAT・3速 ターボグライドAT
ホイールベース:2920mm
全長:4960mm
車体重量:1570kg
デカくて派手なら売れた時代
きっとそんな時代は二度と訪れまい。景気が良いと何故か人は派手な物を欲しがり、逆に悪くなると質素な物を欲しがる。経済学の初歩的な話だ。
トルネードが生まれた1951年もまさにそんな時代だった。みるみる発展していく科学技術に国民は胸を膨らませ、新しい流行が絶え間なく生まれていった。
暗かった第二次世界大戦の雰囲気の反動も相まって、ビビットカラーの派手な家具家電、音楽や映画などの大衆の娯楽も浸透していった。
もちろん自動車ももろにその影響を受けることになる。従来のエンジンの付いた馬車のような車たちはすぐさま過去のモノとなり、次いで消費者たちを釘付けにしたのは、縦にも横にもデカく、一切の意味を成さない派手な装飾に彩られたV8エンジン搭載の地上を走る航空機だった。
↑[「コンチネンタルキット」と呼ばれるスペアタイヤ収納BOX。車体をより長く、低く見せる効果があり人気を博した。]
派手でいて実用的
話をトルネードに戻そう。販売された1951年から1957年の間に度重なるマイナーチェンジを繰り返し、ライトが2つになったり4つになったり、ドアが増えたり伸びたり縮んだりワゴンになったりしながら様々なバリエーションを展開していった。
↑[取材したのはラインナップ中最も高価なコンバーチブル。60年も前の車が電動開閉式の屋根を備えているなんて、一体どれ程の人が信じるだろうか。]
その中でも特に優れているとされているのが、トルネード最後の年の1957年製で、2ドアハードトップ/コンバーチブル、4ドアハードトップ、ステーションワゴン、、レースに勝つためのハイパフォーマンスモデル「HOT-ONE」という最も多いバリエーションを販売しており、エンジンも4種類、変速機も3種類から選べた。また内外装のカラーバリエーションの豊富さというその後のアメリカ車に長らく共通する要素も持っていた。
↑[航空機をモチーフにした長大なテールフィンは、トランクドアよりも最大で25cmほど後方に張り出している。]
↑[製造に手間のかかるホワイトリボンが巻かれたタイヤは高級車の証。1980年代までアクセサリーとして一部の高級車のオプション装備ラインナップに残ることになる。ブレーキは11インチのドラム式。]
また、デクラス社は当時から他社に先駆けて、複数の車種によるプラットフォームや部品の共有化に力を入れており、結果的に販売価格を抑え庶民に広く浸透させることに成功する。(トルネードはA-bodyというプラットフォームに属する。)
コストパフォーマンスの向上はより工作精度の高まりに寄与し、その結果エンジンの信頼性も高くハイパワーなものとなった。
実際に乗ってみた
それでは乗り込んでみよう。とにかくデカい。縦にも横にもデカい上、この車は分厚さもある。全体のバランスは遠くから一見すると中型の車くらいに感じる。実際は全てがデカいからそう見えるだけなのだが。
↑[ベンチシートではなく独立シート+ヘッドレストのモデルなため5人乗り。リアシート後部にルーフが折りたたまれて格納されるため、ラゲッジスペースもごく普通に使うことができる。]
内装は当時のカラーバリエーションの1つであるスカイブルー。眩しいくらいの真紅のボディとの対比が美しい。なんとも落ち着きのある空間を演出している。もちろんシートはレザー。
↑[取材車は3速ターボグライドATのモデルで、オプションのステアリングからコラムシフトレバーが生えている。]
↑[ボディ全長に対して厚みもかなりあるため、離れて横から見ただけでは当時のミドルサイズセダンくらいの大きさに感じてしまう。ドアの高さもかなりあるため、へりに腕を乗せてカッコよく乗り回すのは少々疲れる…]
エンジンをかける。一ヶ月前にオーバーホールしたばかりだという4.3ℓのスモールブロックV8は静かに一発始動した。
ハンドル横のコラムシフトレバーをドライブへ。これがなかなかクセがあって難しいのである。少し手前に引いて下へガコン…行き過ぎた、上に戻そう…あれ、これどうやって上に動かすんだ?
すかさずオーナーのMcDonald氏が飛んできて、手取り足取りレクチャーしてくれた。“力を入れず手招きするような動きで持ち上げるんだ。”
↑[4.3ℓスモールブロックのエンジンは隅々までピカピカに磨かれていた。古い車らしいパンタイプの大きなエアクリーナーが鎮座する。0-100km/hはカタログ値で12.9秒。]
サイドブレーキを下ろし発進。地響きのような重低音を響かせ加速していく。
車体の大きさに似合う豪快な乗り味。足回りは少々固めな印象だが、フカフカのレザーシートはそのストレスを感じさせない。
“屋根しまって走ってみろよ。最高だぞ。”McDonald氏は言う。ワクワクしながらルーフの開閉スイッチをOpenへ。
↑[ルーフを開閉する際に同時に収納されるウインドウピラー。こんなハイテクな装備が60年前の車に搭載されているなんて。]
「ゥウーーーーン」とものの20秒程でコンバーチブルに。
風を感じながらゆっくり街を走る。この爽快感はデザインのモチーフになった航空機よりもクルーザーに近い。
これで風を浴びながら長距離ドライブなんて出来たら最高だろう。
↑[ヘッドライト上に装着されたクローム仕上げのオーナメントは、装飾だけでなく、水平で距離感の掴みにくいボンネットの長さを把握しやすくする役目も担っている。]
総評
上述した通り、プラットフォームや部品の共通化による先進的で効率の良い生産をいち早く取り入れたデクラス社は、その後高品質で安価な自動車を生産する世界トップクラスの自動車メーカーとして地球の裏側まで名を轟かせることになる。
昨今では欧州車、日本車勢に押され気味で少々苦戦しているデクラス社だが、高品質で手頃な自動車を作るというポリシーは60年以上も前から確実に受け継がれていると感じる。
今となってはトルネードはヒストリックカーであり、状態のいいものだと$200,000前後で取引されることもあるが、時折片田舎でくたびれたものや、McDonald氏のような愛好家がレストアして乗っているのを見かけることがある。もし見かけた際は、過ぎ去りし“アメリカ車黄金時代”に思いを馳せてみてほしい。
↑[佇んでいるだけでこんなにも画になる車なんて、今後現れるのだろうか…]